「ふふ、ありがと。」
夕食後、リビングにあるソファへと腰を降ろして休憩をとる。自分の部屋でも休憩はできるのだけれど、夕食後1時間はリビングに、なんて昔からの習慣が染みついているから、どうにもここで休憩をしないと落ち着かない身体になってしまった。いつもならテレビを見るなり、父さんと話をしたりとするのだけれど、今日は考えなければならない事があった。
「・・・さて、(どこにするか。)」
テーブルに置いていた俺の名前以外は何も書かれていない空欄だらけのその紙へと、視線を落としてそう呟く。その紙の一番上には「進路希望用紙」という6文字が大きく書かれてあった。まだ時間があるからそれ程急がずゆっくり考えろ、と先生からそんな言葉をもらった俺は、自分でもここ、という高校を決めていなかったのもあって、親とも相談してみるかと、何も書いていないその用紙を家へと持ち帰った訳なんだが、
「・・・あれ。、それ出してなかったの?」
隣から聞こえてきたのは、両親が用事で居ないからと泊まりに来ている彼の声で。進路用紙へと指をさしている彼とは、両親ともに仲が良いからか、こうしてお互いの家にお互いが泊まりに来る事なんてよくある仲となっている。今ではお互いの家に専用の食器まで揃えられてしまっている程で、食事の時も敦の隣には俺、俺の隣には敦、なんて定位置が自然と決まっているくらいだった。
「ん?ああ、まだ出してない。敦は出したのか?」
「うん、推薦もらえるとこ行けって言われたし。」
夕食後のデザート、とか何とか言ってスナック菓子を片手に携えている敦へと返事をしながら、袋から1つそれをもらって口へと入れる。「これ、うまいでしょー。良いの見つけた。」なんて嬉しそうに言ってくる彼に頷き返しつつ、話を続けた。
「おばさんにか? どこの推薦を?」
「・・・秋田の陽泉ってとこ。」
「・・・あ、きた??」
聞こえてきたその単語に、思わず俺は手の中で回していたペンの軌道をずらしてしまい、床へと落としてしまった。・・・東京以外に行く事を視野に入れていなかった訳ではないけれど、予想していなかったその言葉に、俺はつい、片言のようにその単語を繰り返してしまった。
「・・・それはまた。 いや、敦ならどこに行ってもやっていけるとは思うが、」
「・・・それ、褒めてんの?」
先程までの嬉しそうな色はどこへやら。どことなく面白くなさそうな色を顔に浮かばせた敦は俺の何とも言い難いその言葉に、これまたつまらなさそうな色を含ませて言葉を返してきた。個人的には良い意味で言っているつもりなんだが、出てきた言葉が何だかあまり良いように聞こえないそれで、言葉に詰まってしまう。(・・・神経が図太いというか、何というか。)
「・・・そうか。敦は秋田に行くのか。」
「(・・・話逸らしたし。) ・・・はどこ行こうと思ってんの?」
「俺は、バスケができたらどこでも良いと思ってるんだが・・・」
「・・・それアバウト過ぎるし。」
「バスケとかほとんどの学校でできんじゃん。」 未だに拗ねたような口調で俺に言葉を放つ敦が気になったが、とりあえず、敦のその正論過ぎる言葉に俺はゆるりと頷く。そう、ほとんどの学校でできるから問題なのだ。強豪校とかそんな肩書には興味がないから尚更のこと。本当にバスケができたらそれで良いと思っているから、なかなか進路用紙に学校名が書けないでいた。
「・・・無難に、近くの公立高校でも書いておくか。」
「むう、」
「何でそこで敦が拗ねる。」
「・・・別に、拗ねてないし。」
ここ、という学校がいくら考えても思いつかなかったから、とりあえずという事にして、と、そう呟きながら落としたペンを拾う。すると、隣から何故か冷たい空気とまだ続いていたらしい面白くなさそうなその声が俺へと伝わってくるもんだから、訳が判らず声を掛けるのだけれど、本人はそれを認めてくれない。
「あら、何を書いてるの?」
どうしたものか、と考えながら、とりあえず進路用紙を完成させてしまおうと、第一希望の欄へと地元の高校名を書く。第2、第3希望も近くで思いついた高校名で埋めようと、ペンを滑らせていると、お茶を持ってきてくれた母さんが俺の用紙を見ながらそんな言葉を紡いだ。
だから、俺は一番上にあるその6文字を母さんに見せるように身体をずらすと、母さんは、何故かえらく不思議そうな顔をして、
「え?は敦くんと一緒に秋田に行くんでしょ?」
「・・・は??」
母さんの口から出てきた、既に決定事項になっていると言わんばかりのそんな言葉に、俺は間の抜けた声を上げてしまった。・・・俺が、敦と同じ、秋田に?
「この間もね、敦くんのお母さんとアパートどこにするかって相談してたのよー。」
「・・・へ?」
「寮生活でも良かったけど、ってそういう生活だと変に気を遣っちゃうでしょ。それならアパート借りようかと思って敦くんのお母さんに相談したら、「じゃあ敦も一緒に住ませてもらっても良い?くんと一緒なら安心だわ。」なんて話になっちゃってね。」
「・・・いや、ちょ、ちょっと待ってくれ母さん。 というか、問題はそこじゃなくて、(そもそも何で同じ高校だという事を前提で話が進んで、)」
「どうしてもこの高校が良いなら止めないけど、そうじゃないなら一緒の高校にしちゃいなさいよ。」
「アパートの目星もいくつか付けちゃってるのよねー。」 俺が話について行けていないにも関わらず、自分の言いたいことだけを次から次へと放ってくる母さん。なんとか言葉を挟もうと口を開くのだけれど、それすらも許してくれず、自分の言いたい事は全部言い終えたのか、笑みを浮かべながらそのままキッチンへと戻っていってしまって。
・・・いや、本当に、何だ??何だかんだと母さんは言っていたが、今もよく解っていないが、これだけは・・・敦と同じ学校に行きなさいと母さんが言った事だけは、
「・・・敦、知ってたか?」
「・・・いやあ、全然。」
「そうか・・・。」
俺の隣で、同じく母さんの言葉に耳を傾けていた敦もどうやらこの話は初耳らしい。先程まで絶えず動いていたスナック菓子へと伸びていた手が止まり、拗ねていたその顔はひどく不思議そうなその色が浮かんでいた。
・・・けれど、理解をしたのは、何か答えに行き着いたのは、敦の方が早かったようで。
「・・・まあ、良いじゃん、それで。」
「別に、場所が変わるだけで、今としてる事とかとあんま変わんないって事でしょ。」 止まっていた手を袋の中へと再度伸ばしながら、敦は平然と言葉を紡ぎ出した。
「・・・いや、良い、のか?」
敦の言葉に、半ば自分にも問うようなそんな小さな声で、ぽつりとその言葉を呟いた。
確かに、その通りなのだ。場所が東京から秋田へと移っただけで、さほど変化はない。ああ、いや、食事やら掃除洗濯やらと家事はすべて自分達でしなければならなくなるという事は変化するのだが・・・彼と一緒にご飯を食べて、彼とこうして隣に座って話をして、眠いとぐずる彼をなんとか起こして、敦と一緒に登校して、 彼と一緒にバスケをして、
「 いーの。」
俺に答えを返してきた敦のその顔に、何だか、とても楽しそうな笑みが浮かべられていたから、つい、俺はその笑みに流されてしまうかのように、
「ほら、。 高校の名前、書き直して。」
とん、と進路用紙へと指を置く敦の言葉に、つられるように笑みを浮かべてしまいながらゆるりと頷いて、「陽泉高校」と新たな文字をその場所へと書き直してしまうのだった。
いつまでこいつと一緒なんだ
けれど、彼が嬉しそうな笑みを浮かべるのを見ると、それでも良いかと思ってしまうんだ。
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title by リライト / いつまでこいつと一緒なんだ(腐れ縁な二人へ10の御題)
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