「  ん、」


ふと感じた息苦しさと重みに、俺は思わず身体を捩らせる。けれどそれらは一向に良くならなくて、それどころか、身体を捩らせる事すらも難しくなってしまうくらいに、その重みが俺の身体に襲いかかってきた。


「・・・う、 (なに、)」


金縛りの類かと思ったが、それとは何となく違う感覚が、温かさが、俺の身体へと伝わってきていたから、金縛りではないのだろう。けれど、金縛りじゃないのなら、寝返りすらも打てないこの身体の状態は何なのだろう・・・


「(   眠れない、)」


もう気にせずに再度意識を底へと追いやってしまおうとしたけれど、そんな俺の思いとは裏腹に、既に意識がゆっくりと、それでも確実に浮上し始めてしまっていた。結局俺は二度寝を諦める事にして、その重みの原因を突き止めようとゆるゆると瞼を開いたのだけれど、


「 んう、  おれの、かし・・・」


目を開けるのと同時に聞こえてきたのは、やたらと耳元に近い場所から響いた幼馴染みである彼の声で。そしてゆるりと顔だけ横に動かしてみれば、俺の視界にはやはり彼の髪の色がめいいっぱいに広がってきた。


「・・・(原因はおまえか。)」


何の夢を見ているのか、ぼそぼそとそんな寝言を紡いだかと思ったら、腰に巻き付けていたらしい腕をさらに強くして、俺の身体を自分の方へと引き寄せようとする敦。俺はお前の部屋にある抱き枕の代わりじゃないんだが・・・なんて心の中で呟きながら、開いた口からはため息を零す。

突然感じた息苦しさの原因を難なく発見した俺は、びくともしない自分の身体をそのままに、ゆるりと彼のいる方と反対のその場所へと顔のみを動かす。すると、そこの布団には眠っているはずの人物がおらず、もぬけの殻になっていた。身体が動かせない所為で携帯を見る事ができないが、どうやら、そろそろ起床しないといけない時間らしい。


「・・・敦、 敦、」


「そろそろ起床時間だぞ。」 とりあえず、最初は声のみで隣で気持ちよさそうに眠っている彼を起こそうとする。しかし彼から返ってくるのは「ん、 、 」なんて俺の声に反応しつつも案の定、寝言だけ。それから、肘までなら動くその腕を彼の方へとなんとか伸ばして、揺する、とまではいかないものの、多少の振動を彼に伝える方法へと起こし方を変えてみる。


「  うん、  もう、 ちょっと・・・」
「もうちょっとじゃないだろ。ほら、起きないと朝食に遅れるぞ?」


すると、少なからず効果があったようで、お決まりのそんな言葉を舌足らずなそれで紡いできた。それからまもなく、寝起きの身体のどこにそんな力があったのか、天井へと向いていた俺の身体をくるりと回転させて、それこそ抱き枕よろしく、真正面から俺を自分の腕の中へと引き寄せてきて、俺の言葉を聞かなかったことにしようとする始末。


「・・・ちょうしょく・・・あさ、ごはん、 」
「そう、朝ご飯。ほら、身体起こして。でないと俺も起きられない。」


俺の言葉を聞くや否や、早くも二度寝を決め込んだらしい敦。けれどそんな事をされては俺も困るから、慌てるようにして、朝食、という言葉を付け加える。そうすれば、彼がその言葉に反応を示してくれたから、俺は畳み掛けるようにして、「遅くなると、大輝に食べられてしまうぞ?」なんてチームメイトの名前も出しつつ、起床を促し続けると、ようやく、閉じられていた双眸が俺の顔を捉えてくれた。


「おはよう、敦。 ほら、早く起き、  ん?」


まだ寝ぼけ眼のそれらに、笑みを浮かべてしまいながら、眠気を助長させてしまうと分かっていながらもそのさらさらとした柔らかい髪の毛へと手を伸ばして、ゆるゆると撫でて、彼へと挨拶をする。

そんな事をしていると、急に、彼がさらに俺の身体を自分の腕の中へと引き込んで、


「・・・あさごはん、 、でんの?」


・・・と、また、理解に時間が掛かってしまう言葉を、今まで以上に明瞭な声で放ってきた。(・・・・)


「・・・・俺は朝食に出ない。というか、そもそも俺は食べるものではないんだが。」


「まだ、寝ぼけているのか?」 その言葉の意図を理解しないままに、それでもなんとか言葉を返せば、目の前にあるその顔は、何故だか眉間に皺を寄せ、えらく不機嫌なその色を顕わにした。


「(いや、その顔をしたいのは俺の方なんだが、)」


なんて思いながらも、それを口にしてしまうと彼がさらに拗ねて本気で二度寝(ふて寝)をしてしまいかねないから、それは喉奥に引っ込める。なんとかして彼の機嫌を上向きにするか、思考を別の方向に向けさせるかしないと、なんて考えあぐねていると・・・敦の方が、早く答えに行き着いてしまったらしい。


「・・・じゃあ、今、たべるし。」
「・・・は? ちょ、おい、敦っ、!」


・・・ちょっと待て、今食べるってどういう事だ。  聞こえてきた敦のそんな言葉に、そう反応を返そう としたのだけれど、その長い手で俺の腰と背中を捉えて、その大きな身体を少しだけ屈めて首元へと顔を埋めてくる、敦のそんな行動に、その言葉を返す前に俺は慌てふためいたそんな声を放ってしまう。


「あつ、しっ、  おいっ、 っ!」


敦のその行動に、ようやく危機感を覚えた俺だったけれど、遅すぎた。既に行動を起こした敦からの、首筋へと伝わってくる、ぞくりとしたその感覚に、俺はまた情けない声を口から漏らしてしまう。けれど、逃れようにも、それが寝起きだったとしても、その大き過ぎる物体を押しのけるだけの力は俺にはなくて、


「・・・しょくぜんのデザート、  いただきます。」


食前のデザート、なんて敦が訳の判らない言葉としっかりと食前の挨拶を放った、そんな時、
俺は初めて、彼の大きく伸びたその身長を憎んだのだった(・・・押し返せない、)
悩んでる暇もありゃしない
(ゴンッ!!)   ってえ!!!   (・・・た、助かった。)   んだよ!赤ちん!!今無言で思いっ切り殴ったし!!   ・・・朝っぱらから俺を襲おうとした敦が悪いと思うんだが・・・   違うし!が作ったお菓子を俺じゃなくて峰ちんに全部渡したが悪いんじゃん!   ・・・それは、夢の中の話じゃないのか?






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title by リライト / 悩んでる暇もありゃしない(愛すべき仲間たちへ十の御題)