トントン、


遠くの方から何か音がした気がして、ゆるりと意識が浮上し始める。それから、重たい瞼を辛うじて開けるとそこに広がったのはいつもの自分の部屋ではない事に気が付いて、ああ、そういえば、昨日から君の家にお邪魔する事になったのだっけ、という事を思い出す。


「・・・、」


結局、昨日は皆で騒いでしまって、君も含めた5人がリビングで雑魚寝という形になったんだった、という事もぼうっとする頭で思い出して。それでも僕達の身体が温かいのは僕達が眠ってしまった後、おそらく君が毛布をかけてくれたおかげなんだろう。周りへと目を移せば、気持ちよさそうに毛布を手繰り寄せて眠っている黄瀬君の姿と、大の字になって寝ている火神君の姿が見えた。


「…、(9じ、)」


それから時計の方へと視線をやると、同時に僕の目はキッチンの方にも人影があるのを認識する。そこでようやく、先程から聞こえていた音は君が朝ご飯を作ってくれているからなのだという事に気付いて。起きて手伝わないと、と思うのに、昨日彼らと練習試合をめいいっぱいした所為なのか、身体が思うように動いてくれなくて。

そんな事をしていると、今度は近くから微かな物音が聞こえてきて。その音に、そういえば、もう1人の姿が見えないなと思っていると、君もその音に気が付いたらしく、そちらの方へと顔を上げた。すると、彼の顔にゆるりと笑みが浮かべられて。


「 ああ、大輝。 おはよう。」


君のいるキッチンを見ていた僕の視界にも、ぺたぺた、という音の後、すぐにその音を出していた人物が入ってきた。眠たそうに目を擦っている青峰君である。


「 おー、」
「ふふ、眠たそうだな。」


「まだ寝ておいても良かったのに。」なんて笑いながら君は青峰君にそう言葉を紡いだのだけれど、青峰君はこちらに戻ってはこなくて。珍しい、なんて一瞬思ったけれど、そういえば、君の家に泊まった時、青峰君が一番遅く起きてくるなんてところを見たことがない事に気が付いて。(中学の合宿の時は、毎回最後に起きてきたというのに。)


「ふふ、結局リビングで皆が寝てしまったが、身体は痛くないかい?」
「別に痛くはねえよ。 ・・・魚か。」


朝ご飯作りを続けながら青峰君と会話を続ける君。そして訊かれた本人はと言えば、返事をしつつ何やら火元に立ったかと思えば、鍋の中を覗いて、ぽつりとそんな言葉を呟いた。どうやら朝ご飯の確認をしていたらしい・・・青峰君らしいというか、何というか。そんな事を思っていると、僕からしてみれば、突然、青峰君が「 ん、」なんて言いながら、君の方へと手を伸ばして、


「はい。 ちょっと薄いかも知れない。」


けれど、そんな青峰君の行動に、君は何の疑問を持つこともなく、当たり前のように小皿を彼の掌へと乗せながら、そんな言葉を紡いだ。そして、その小皿を受け取った青峰君はと言うと、その中へとお玉で掬った煮汁を入れると、そのまま口元へと持っていって、


「 ・・・あー、そうだな、ちっと醤油が足んねえ気がする。」


・・・なんて、そんな事を言ったかと思えば、側に置いてあった醤油をとって鍋の中へと一回り入れたのだ。そんな彼の行動に、未だに寝ぼけていた僕の頭も一気に覚醒し始める。それくらい、驚いたのだ。まさか、青峰君が、中学の頃は全くそんな事をしなかった、というかそんな事をしなさそうなあの彼が、そうやって味見をして、その上何が足りないかを把握して自分で味を足すなんて事をすると思わなかったから、


「あ、大輝、ついでに味噌汁に味噌を入れてくれると助かる。」
「へいへい、」


君の言葉に、返事こそやる気のなさそうな声音だったけれど、それでもちゃんと手は動かしていて、もう1つの鍋の方へと青峰君は手慣れた様子でこし器と箸で味噌を溶いていった。青峰君には失礼だけれど、でもやっぱり味噌を溶く青峰君なんて、違和感があまりにも大きすぎてとても拭いきれるものじゃなかった・・・のだけれど、


「ふふ、ありがとう、大輝。」


隣で君が料理をしていて、彼はその手伝いをしているんだという事を加味すると、そのアンバランスはあっという間に解消されてしまって。・・・と言いますか、君と青峰君の2人がキッチンに立っていると、反対に様になっているように見えるのだから、何だかおかしくて仕方が無くて、つい、僕は顔をゆるりと綻ばせてしまう。

青峰君がそうしている事に驚いたのは事実だけれど、でもそれは理解のできないものではないのだ。様になっていると言ったように、君が側にいるだけで、ああ、彼と一緒にいるんだったら、青峰君もそれくらいはしそうだ。と、2人を知る人達であれば、そうやって納得できてしまうくらいに、


、豆腐とって、」
「はい。全部入れてくれるか?」
「おー、」


掌の上に置いた豆腐へと包丁をストンと降ろして、さいの目に切ったそれをゆっくりと鍋の中に落としていく彼を見ながら、昨日の買い物帰りに黄瀬君がふと口にした一言を思い出して、再度笑ってしまいながら、僕は漸くゆるりと自分の身体を起こす事にしたのだ。


「 おはようございます、君に青峰君。」


もう少し2人のやりとりを見ていたい気がしたけれど、さすがに起きているのに手伝わないわけにはいかないですし、ね。
Con moto
おはよう、テツヤ君。昨日はそのままリビングに寝かせてしまったけれど、身体は大丈夫かい?  はい、大丈夫ですよ。  ・・・テツ、お前、寝癖が相変わらずすげえ事になってっぞ。


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