「おくじょう」の字が「まってろ」の4文字になったのはいつからだったか。ずいぶんとまるくなったな、なんて親が子を思うような事を考えながら、4限の終わり、携帯をポケットに入れてその文字通りに自分の席で待っていれば、昼休みで立て込む廊下に彼はすぐに現れた。人一倍高いその背丈は見つけるのにとても便利である。こちらへと向かってきてくれる彼の名前をふわりと呼んだ。「  大輝、」


「 おら、行くぞ。」
「今日は天気が良いから、屋上に行くかい?」
「おー、」


気の抜けた声で返事をしてきた大輝は俺の隣でゆるりと歩を進めた。今日の部活は何時まであるのかと聞けば、「あー、7時くれーだったか、」と曖昧な言葉が返ってきた。それでも、終了の時間を覚えるくらいにはなったか、なんて変なところで感心してみる。


「あ、今日はテツ達とストバスすっから。」
「そうなのか?それなら、7時くらいに校門で待ってれば良いかい?」


聞こえてきたその声に、いつも通りの返事をする。バスケを一切しない俺に彼がその事を伝えてくれるのも、そしてその言葉の中に一緒に来るんだろう?という意味が含まれている事も、俺達にとってはいつも通りの、


「・・・別に、校門じゃなくても部室に来ればいいじゃねえか。」
「・・・さすがにそれは駄目なんじゃないのか?」


「一応、俺は部外者だぞ?」俺の言葉に何故か顔をしかめて言葉を放ってきた大輝に、今度は俺の方が困った顔をしてしまう。確かに、試合を毎回見に行っているから顔は覚えてもらっているけれど、それでもやっぱり部外者が部室へと行くのは気が引けてしまって、


「んなこと気にする奴いねえよ。大体、全員お前の顔知ってんだろ?」
「いや、それはそうだが、」
「細かいこと気にしねえで、来りゃ良いんだよ。」


「それでも気になんなら、さつきにでも言っときゃ良いだろ。」なんて携帯を取り出した大輝はたたみ掛けるように俺に言葉を放ちながらメールを打ち始めた・・・どうやら、彼の中では既に俺は部室へと行く事が決定になっているらしい。そんな勝手な事をして怒られるのは大輝になるんじゃないのか、そう言葉を紡ごうとすれば、 ずいっと俺の目の前に彼の携帯を出された。


「・・・「くん来るんだね!それなら放課後になったら一緒に来るよう伝えて!買い出しに付き合ってもらうから!」・・・大輝、君はさつきに何てメールしたんだ?」
「ん?が部活に来るって言った。」
「・・・もう既に部室にって話じゃなくなってるぞ?」


部外者が部活に来るって、そんな気軽にできるものじゃないだろう?さつきの返信メールを見た後、すぐに大輝へと視線を移す。けれど、俺の心配を余所に、彼は全く気にもとめていないようで、屋上のいつもの場所に来るとゆっくりと腰を落ち着けて、昼食のパンを食べ始めた。


「さつきが買い出しに付き合えって言ってんだから、付き合ってやれよ。」
「いや、それはもちろん構わないけど、それとこれとは、」
「違わねえよ。買い出しに付き合ってんだから、部外者じゃねえだろ?」


俺の方が正論を言っているはずなのに、大輝の言葉に逃げ場を失っているようにしか思えないのはなぜだろうか?俺が心配して紡ぐ言葉1つ1つが彼に言いくるめられて、行っても良いのだろうかという気を大きくさせてくる・・・もちろん、行きたくないわけがないのだ。


「それとも、来たくねえのか?」


その事を大輝は知っているから、俺にそうやって、まるで自分が勝つのは時間の問題だと言わんばかりに言葉を紡ぐのだ。・・・この場合、嬉しいのか困ることなのか判断しかねるが、事実、彼が一番よくその事を知っているのだ。部活に行けば、俺の、大好きな、 


「部活に来れば、俺のプレーが見られるってのに?」


にやにやと、ひどく楽しそうに大輝は笑みを浮かべて、俺へと駄目押しと言わんばかりに言葉を放った。「 どうする、?」自分の意思に反して、弁当へと伸びていた箸が面白いくらいにピタリと止まってしまった。その言葉を言われてしまえば、俺の出す答えなんて、


「・・・かしこくなったな、大輝。」
「あァ!?」
「ふふ、さつきにメール送らないとな。買い出しに付き合うよって。」


素直に頷くのが少し悔しくて、皮肉を1つ呟いてから言葉を続けた。・・・まあ、皮肉を言っている最中も緩む顔は抑えきれていないのだからあまり意味を成さないのだけれど。その証拠に、目の前でパンを食べ終えた大輝は拗ねたかと思えば、すぐにその顔はゆるりと口角の上がったそれに変わって、


「どーせ答えは決まってんだから、最初っからそう言えっての。」
Andante
「卵焼きもらうぞー」なんて言いながら、大輝は俺の箸に挟まれていたそれを口に含んだ。


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title by edona / Andante(アンダンテ / ほどよくゆっくり)(music)