ベッドの中でもぞもぞと動いて、むくりと起き上がったはようやく目を覚ましたらしい。時計を見ずに彼はそんな事を思っているが、身体の調子で何となく分かるのだ。寝過ぎてしまった所為で、それから昨夜の情事の所為で、やけに凝り固まってしまっていた筋肉をほぐすように腕を伸ばす動作をしながら、はぼーっと部屋を眺めた。この部屋にいる時にはほとんど感じることのできない静けさがを包んでいた。
「(本人がいないから、それが普通なのか。)」
今頃、外でいつもと同じように気まぐれに参加者に手をかけているのだろう。 やけに綺麗な色をしたその頭を思い浮かべていると、タイミングが良いのか悪いのか、「ー、まだ寝てんのかァ?」なんて聞きなれてしまったその声が、ドアの外から聞こえてきて。
「なんだ、起きてんじゃんかよォ!」
「もしかしてェ、俺の事待ってたりしてー?ヒャハッ!ちゃんカワイイー!!」 起きぬけに妙に高いテンションで話しかけられたは、そんな声に顔をしかめながらも「おはよう、グンジ。」なんて挨拶だけはしっかりとして、ばふっと、勢いよくベッドへと腰を下ろしたこの部屋の住人へと視線をやった。どうやら、先程の彼の言葉は完全に流す事に決めたらしい。彼の方も流された事に、気づいていないのか、はたまたどうでもいいのか、にやにやと、妙に楽しげな笑みを浮かべながら続けざまに言葉を放った。
「さァ、今日って何の日か知ってるー?」
「・・・今日?」
突然に紡がれたそんな言葉に、はグンジから出てきたその単語を繰り返すように口にすることしかできない。今日・・・、何かあっただろうか。あのグンジが覚えていて、俺が覚えていない事・・・?なんて口にしないものの、心の中で失礼な事を呟きながら、グンジの情報源ならアルビトロかキリヲに違いないだろうと判断したは、最近の2人の言葉を思い浮かべる。「ああ、そういえば、」
「・・・確か、ホワイトがどうのこうのと聞いた覚えが、」
「そー!それだよそれっ!」
「んだっけなー、ホワイト・・・デー?ってヤツ!!」 自分から聞いておいて、なんでそんなに曖昧なんだ、グンジから出てきた言葉に、は思わず苦笑していまいながら、そのホワイトデーとやらのアルビトロから聞いた限りの詳細を思い出す。確か先月の、誰かが死んだ日と対になっていたような・・・、その日に渡すプレゼントを渡した際のお返しを今日するとかじゃなかっただろうか。グンジと同じく曖昧になってしまっていたその詳細を何とか脳内の引き出しから引っ張り出す。
「・・・(お返し??)」
お返し、というか先月のそんなイベントさえも全く知らないままで時が過ぎ去ったというのに、何のお返しをグンジはするのだろう?というか、名前すらもまともに覚えていないのに、内容を彼は覚えているのだろうか。視界に広がる金色のその髪の毛を眺めながらそう考えていれば、案の定、グンジから返ってきたのは、
「ホワイトデーってことはァ、ほら、ホワイトって確か白って意味だろー?」
「・・・ホワイトの意味は合っている、ね。(・・・ホワイトデーとしては、間違っている気がするけれど、)」
「だからァ、俺のを、にぶっかけるーって日って事だろ?」
「・・・(・・・また、何を言い出すのかと思えば。)」
ホワイトデーの意味を取り違えているだろう事くらいなら予想はできたけれど、・・・まさか、ここまでぶっ飛んだ考えに行きついているなんて。 はグンジから放たれた言葉に、盛大にため息を吐かざるをえなかった。さらに彼の口から紡がれた、「ジジィもそういう日なんじゃねェのって言ってたぜ−?」なんて言葉に、再度深い息を吐くしかなくて。(・・・キリヲ、俺に押しつけたな。)
「でェー、 、飲むだろ?」
「遠慮しておくよ。」
「はァ!?なんっでだよっ!!」
さも当たり前のように訊いてくるグンジへと、は間を置くことなくそう答える。しかし、当然のように自分の誘いに乗ると思っていたグンジにとって、の答えは全くもって予想すらもしていなかったものだったらしい。の言葉を聞いた途端、上り調子だったはずのグンジの機嫌は瞬く間に急降下していった。処刑人の機嫌を損なってしまう、なんてイグラの参加者からしてみれば、死を覚悟してもおかしくはない出来事だというのに、けれどそんな事をしでかしたはずの当の本人であるは、目の前にいるグンジの機嫌云々にかかわらず、自分の主張を貫いた。
「生憎、俺は好き好んで人の精子を飲む趣味なんて持っていないからね。」
「えェー、イイじゃん。俺溜まってんの。」
「・・・昨夜あれだけ暴れておいてどの口がそれを言うんだい?」
「あんなんじゃ足りねェー。だいたい、昨日は久しぶりだったろォ?」
「・・・久しぶりの定義は人それぞれだとは思うが、少なくとも俺は久しぶりじゃないと、っ!!」
堂々巡りをしているような気もしたけれど、これ以上行為をしてしまえば自分の身体が危ないと判断したは、子供のように駄々をこねて自分へと抱きついてくるグンジを受け入れながら、呆れるようにしてため息と一緒に言葉を放つ。けれど、グンジの我慢も限界に来ていたらしい。急にグンジが抱きしめる力を強くしたかと思えば、視界には天井を背景にグンジの顔が広がっていて、
「確かに甘くはねェ、ってか、苦ェけどー、ほらアレじゃん、愛だけは詰まってっからァ、」
「あ、確か、パパが愛し合う日だとかも言ってた気ィするしー。」 なんて言いながら、の唇へと自分の口を寄せるグンジに、は心の中で密かにため息を吐く事しかできなくて。だいたい、彼がそう言って逃れられた日なんてあっただろうかと、自分が悲しくなるような問いをしつつ、はその唇を突き返す訳でもなく、ゆるりとそれを受け入れて、(・・・甘やかしてしまう俺も、俺だけど、 )(・・・それにしても、アルビトロも適当な事を言って、)
「たっぷり、愛してやるぜェ?」
妖艶な笑みを浮かべながらそんな言葉を放ってきたグンジに、「それは、楽しみだね。」 なんても笑いながら返事をしてしまうあたり、どうやらこの2人は中々旨い具合に関係を保っているらしい事が窺えた。