「しばらくそこで反省してろ。俺は仕事をする。」 怒鳴られる訳でもなく、いつもの声色と同じ調子で言われてそんな言葉を耳にしながら、その後のパタンとドアを閉める音も聞き取った。いつものように買い物を済ませた後、クロコダイルに言われたとおり寄り道することなく帰っていたはずなのに、何故か仕事をしていたはずの彼に帰路の途中で会い、そのまま無言で腕を掴まれて、訳の判らないまま引っぱられながら連れてこられた自分に宛がわれているこの部屋。今聞こえるのは、自分の呼吸音だけだった。
「(・・・俺、何かしてしまったのだろうか。)」
声色はいつもと同じ調子だった。けれど今の言葉に、怒った時のそれが少しだけ含まれている事をは理解していて、彼を怒らせてしまった原因を必死に考える。いつも冷淡で、冷静に物事を運ぶ彼だったけれど、別に無感情という訳ではない。ただ、普通の人よりも喜怒哀楽が表に出ないだけで。
「(・・・いつも通りの時間に行って、いつも通りの帰ってきていたつもりだったんだけど。)」
は困惑しながら先程の買い物の事を思い出す。確かに、彼の感情の変化を理解していたし、本当は今すぐにでも謝りたかったが、如何せん、今回はその理由が分からなかった。本当に、いつも通りに買い物を済ませたはずなのに。今まで怒られた事はあったけれど、こんなまるで突き放されたような怒られ方をされた事なんて片手で数えても指が余ってしまうくらいにしかなかったは、足に置いていた手をぎゅうと握りしめる。理由は分からないけれど、彼を怒らせるのは本意ではない。でも、怒らせてしまったのは他の誰でもない自分であって。
がそうやって自責の念に駆られていると、ドアの方からコンコン、とノック音が静かに響いてきた。
「 、今入っても良いかしら?」
「 ロビン、さん? あ、はい、大丈夫です。どうぞ。」
聞こえてきた声に少し驚きつつも、はなんとかそう声を出した。彼が仕事だと言って出て行ったから彼女も付いて行ったものだと思っていたのに。どうしたんだろうと思いながら、ロビンが入ってきて自分の隣に座るのを眺めていると、「フフ、、泣きそうな顔してるわ。」 なんて言われて、ゆるりと目の下を指で撫でられる。
「え、あっ、 えっと、これは、そのっ、!」
ロビンの行動に慌てながら、まるで涙を拭き取るように手で頬を擦って、なんとか言い訳を探そうとするに、けれど彼女には全てお見通しだったらしい。「サーにひどい事を言われたのね?」なんて語尾を上げて訊ねるようなそれだったけれど、まるで確信しているようなそんな言葉。けれどはそれに頷く事はせず、ぼそぼそと、今の自分の状態の経緯を話し始めた。
「あの、いつもと同じように買い物を済ませてここに帰ろうとしていたんですけど、」
「その途中で、クロコダイルさんに会って、その時には既に、何だか怒ってるようで、」 自分の中でもまだ整理が着いていないのか、何だか言葉が継ぎ接ぎのようにの口から紡がれる。けれど、ロビンにはそれでも理解できたらしく、が話し終えるのを待って、まるで子供に言い聞かすような、優しい、穏やかな口調でゆるりと話し始めた。
「、サーと会った時、貴方は何をしていたの?」
「? ええと、知らない人に、店の場所が分からないから教えて欲しいと言われたので、」
「それで、道案内して欲しいとか、言われたんじゃない?」
「あ、はい。 でも、そんなに入り組んだ所にある訳でもなかったし、遅くなったらクロコダイルさんに怒られちゃうと思って、断ろうとしたんですけど・・・」
「腕を掴まれて、「迷子になりやすいから連れて行って欲しい。」なんて言われたのかしら?」
「え、あ、はい、その通り、です。」
「でも、やっぱりクロコダイルさんがさっさと帰ってこいと言っていたのを思い出して、断ろうとした時に、ちょうど、クロコダイルさんに会って、」 ロビンのそんな言葉に何で分かるんだろう、なんて不思議に思いながら、ぽつりぽつりと言葉を続ける。その話を聞いている時も、変わらずロビンは笑みを浮かべていて、
「・・・俺、やっぱり何かしてしまったんでしょうか、」
理由が分からない所為か、いつも以上に不安に駆られてしまいながら、そうロビンに、自分に問いかけるように言葉を口にする。きっと、の頭の中には、彼に嫌われてしまったら、なんて事でいっぱいになっているのだろう。の顔を見れば、それがすぐに分かるくらいに、ひどく困ったような、悲しそうな、それだった。
「フフ、サーは愛されてるわね、ほんと。」
「? あの、ロビンさん?」
「私がサーに嫉妬してしまいそうよ?」 爪が食い込んでしまうくらいに握り込んでいたのその手にふわりと自分の手を重ねるロビンが込められていたその力を自然に緩ませていく。続けるように紡がれた言葉も、優しいそれだった。
そう、彼が不機嫌な原因もそれ、なのだ。少し帰る時間が遅いからと言って、迎えに行くと言って聞かず、会議が終了するとすぐにのいるであろう街の中へと足を向けた彼を、ロビンはしっかりと見ている。そんな中、が何処の馬の骨とも分からない相手に、腕を掴まれ、連れて行かれようとしていた場面に出会してしまったのだ。面白くない、なんて彼が思っただろうという事が、すぐに推測がつく。
まあ、自分の事になると途端に鈍感になってしまうに全く非がない、なんて言ったら、嘘になるかも知れないけれど。なんて思いながらも、彼の心の狭さに同時に少しだけ呆れる。全く、普段は冷静沈着だというのに、この子に関する事になると、途端に喜怒哀楽が表に出やすくなるんだから。
「、今からサーの所に行ってみたらどうかしら?」
「え、で、でも、」
「フフ、大丈夫よ。サーはきっともう怒ってないわ。」
「そうね、どうしても不安というなら、」 たぶん、に彼がその腕を掴んだ青年に嫉妬して不機嫌になった、なんて本当の事を言っても信じる事はないと思ったから、本当の事は、まあ、彼の威厳の為に、ということで黙っておく事にして。こそこそと楽しそうに耳打ちするロビンのその言葉をしっかりと聞き取る。そんな事で、彼の機嫌が直るのだろうか?なんて出された提案に首を傾げるだったが、ロビンの言っている事が嘘だとは思えなくて。
「ロビンさん、今、クロコダイルさんって・・・」
「仕事はもう済んでる頃だから、行っても大丈夫。」
試せるものは、全て試してみよう。の顔には、まだ不安そうなそれが残っていたが、けれどロビンの言葉にゆるりと立ち上がって、扉の方へと向かう。彼がそれで許してくれるのなら。確信なんてないけれど、でも、何もせずに、彼とこのままぎこちない状態が続く方が、にとっては苦痛だった。
「ありがとうございます、ロビンさん。 あの、俺、謝って来ます。」
「フフ、行ってらっしゃい。貴方の思いが届くよう、祈ってるわ。」
もっとも、祈るなんて事をしなくても、大丈夫だとは思うけど。 なんて言葉は声に出さずに、ロビンは彼の部屋へと向かおうとするへと笑みを浮かべて送り出した。さて、も無事に彼の元へと向かったとうだし、そろそろこの部屋から出るとしようか。の部屋として宛がわれているはずなのに、妙に使用感がないその部屋から。(もちろん、そうさせているのは、他でもない彼なのだろうけれど。)
謝る前に、大好きだと、貴方の口から言うだけで
きっと彼は、ため息をわざとらしく吐きながらも、貴方を許してくれるだろうから。(まあ、許す云々の問題じゃない気がするけれど。)
な、長ったらしくなってしまってすみませんっ!し、しかも前後編とか、もうっ!!本当に文章を纏められない阿呆でごめんなさいっ。し、しかもこれほとんどサーがでてきてないよっ!!こ、後編はもちろん仲直り編でございますっ。後半はしっかりちゃっかりサーと主人公がメインですのでっ(当たり前だ)
す、素敵なリクエストをありがとうございました!
requested by ノア様
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