「(・・・そっと、 そーっと、)」
足音すらも立てないように、部屋を出て行こうとする。その部屋にあるソファでは、の父親であるその人物が珍しくその場で寝入っていた。深い眠りの所為だろうか、息子が出て行こうとしていると言うのに、彼は全く気付いていないようだった。もで父親を起こさないようにとしているのだから、尚の事。
カチャリ、 そうしては眠る父親を気遣って、扉を開き外へと出かけていった。
「ふふ、 きれいなうみ!!」
ミホークと一緒に居た部屋を出て、外へと散歩に出て芝生のある場所に着いたはその場所へと腰を降ろして遠くにある海を眺めた。以前、ミホークと散歩をしていた時に見つけた場所だ。道が側にあり、決して見つけにくい訳でもないその場所は、の散歩コースの1つになっていた。
がここに来るのは、大好きなその海が見えるというのも理由の1つであったが、一人でここに来るようになってからは、もう1つ、大きな理由が1つ増えた。
「( 今日は、だれか通ってくれるかな。)」
道が近くにあるからか、のいるこの芝生を通っていく人間はそう少なくはなかった。そして、が居る時にその芝生へと寄ってくれる人も。挨拶をしてくれたり、しゃがみ込んで一緒に会話をしてくれたり、わざわざ、がここに居る事に気付いたからと言って本部からお菓子を携えてここに来たり。
それほど、頻繁にここへ来られる訳でもなかったから、はさらに気分を上向きにさせながら、側にある道をぼんやり眺めていたそんな時、の視界に、の知っている、その黒いそれらが映り込んできて。その色に、思わず思い切り顔を上げてみれば、そこにはやはり、
「あっ! クロコダイルさんっ!」
「 ・・・か?」
「そこで何してる?」 その人物が自分の知っている人、クロコダイルであると分かった瞬間、はその場から飛び起きて彼の元へとぱたぱたと駆け寄った。そして、彼の方も自分を呼んだ人物がであると分かると、進めていた足を止めて、駆け寄るをその場で待つ。
「おさんぽしてて、ここできゅうけいしてました!」
「・・・一人で、か?鷹の目はどうした?」
「パパがおひるねしてたから、ぼくがいたらおきちゃうと思って、一人でさんぽをしにきたんです!」
「クハハ、父親が息子に気を遣われるとはな。」
自分の言葉にそう言いながら笑うクロコダイルを見上げるは、何がおかしくて彼が笑っているのかは分からなかったが、けれど、彼がどことなく楽しそうに笑っているから、もそれにつられて笑みを浮かべる。
「クロコダイルさんは、ここでおしごとですか?」
「いや、今回は暇つぶしだ。特に急いでる用はねェ。」
「!じゃ、じゃあ、・・・あの、」
「ぼ、ぼくといっしょに、おさっ、 ふわっ!」 クロコダイルの返事に続けるようにして、が言葉を紡いでいる最中、強い風が、の身体へと吹き付けてきて。大人であれば、どうって事のない風であったのだけれど、子供のにとって、それはよろめいてしまうくらいのそれであったから、ゆらりと、風の吹く方向へと身体を傾けてしまう。「(たおれちゃう!)」 自分の力で戻せない程に傾いてしまったその身体に、本能的そう判断したは、来るであろう衝撃に、反射的に目を瞑った。・・・のだけれど、
「 あれ、? (いたくない??)」
「ちっ、・・・たく、これだからガキは、」
いつまで経っても来ない衝撃に、その代わりになのか何なのか、自分の頭の上にある何かが触れている感覚に、がおそるおそる目を開けてみると、そこには回転も何もしていない、先程見ていた風景のままが映し出されていて。けれど、その風景に、少しだけ違和感を覚えたのは、
「くろこ、だいるさん?(・・・さっきよりも、ちかくなってる?)」
それが、自分の気のせいなのか、本当にそうであるのかが、には分からなかったが、けれどきっと自分が倒れずに済んだのは彼のおかげであるのだろうと思ったから、「ありがとうです、クロコダイルさん!」 と笑みを浮かべながら、が彼を見上げてお礼を言えば、彼との間に、しばし、沈黙が流れた。・・・すると、突然、の身体は浮遊感を覚えて、
「うわ、あ! え、 あれっ? (た、たかくなった!)」
急なそれに驚き理解が追いつかなかっただったけれど、父親に抱かれている時のそれと、何か似たような感覚だとすぐに気付いて、首を上へと傾けた。そうすれば、そこにあるのは、いつものように父親のそれではなく、
「くろこ、だいる、さん?」
「・・・どっちに行くんだ。」
「へ?」
まさか、抱き上げられるとは思っていなかったは、びっくりしながら彼の名を呼ぶのだけれど、彼から返ってきたのは答えになっていないそれで、思わず間の抜けた声を出してしまった。「・・・散歩の途中だったはずだ。さっさと方向を教えろ。」 けれど、吐き出されるように紡がれたその言葉も、はしっかりと聞き取っていて。
「 あっちです!」
そんな言葉に、ぱあっと目を、顔を、輝かせたは、嬉しそうに笑みを浮かべて、いつもの散歩ルートであるその方向を、彼の腕の中で元気よく指したのであった。さあ、楽しいお散歩の再開だ。
お気に入りのその場所に
今日はクロコダイルさんに会えました!とてもうれしかったです!!