「わ、 え、エース隊長?」
ノック音とほぼ同時に、俺が返事をする間もなく部屋へと大きな音を立てて入ってきたのは、エース隊長で。急ききった様子で俺の部屋へと駆け込んできた隊長は、「な、何なんだ、一体?」なんて言葉と一緒に深く息を吐き出していた。ベッドへとそのまま勢いよく腰掛けた隊長に、どうしたのだろうかと訊こうとしたのだけれど、隊長から香ってくる甘いそれが俺の鼻をくすぐって、訊く前に答えへとたどり着く。
「・・・そんなに、部屋にチョコレートが??」
「あァ、もう、凄いチョコレートの匂いが部屋に充満するぐらいに・・・って、、何で分かるんだ??」
俺の言葉に不思議そうにそう返事をするエース隊長。それから先程ナースさんから教えてもらったバレンタインの事をエース隊長にも伝える。どの島の伝統だか分からないけれど、昔から好きな人へと、お世話になっている人へとチョコレートを渡すイベントがあるのだと。
「 あァ、だからか。世界には色んなイベント事があるんだな。」
「ふふ、そうですね。俺も、さっきナースさんに教えてもらったんです。」
「・・・でも、何でチョコレートだけなんだ。」
「・・・しばらくチョコレート三昧、」 どこか疲労の色を滲ませながら、隊長はそう言葉を漏らす。しばらくどっかに居候させてもらおうかな、なんて呟く隊長に、それほどまでに部屋の中がチョコレートでいっぱいなのかと、俺は隊長がこの部屋へと入ってくる前に悩んでいたその答えがさらに深くへと沈んでいってしまうのを感じた。
「マルコ・・・も、チョコレート多そうだな。 あ、 」
「( ・・・じゃあ、俺がチョコレート渡しても、)」
「なあ、しばらくこの部屋に、 ??」
どうやら俺はひどく考え込んでしまっていたらしい。「おい、?大丈夫か?」 なんて顔の前で手を振って俺の焦点を自分へと戻してくれた隊長が、不安そうな顔をして俺を見ているのが視界に入ってきた。大丈夫です、なんて返事をしたけれど、思っていたよりも、俺は深みに沈んでいたようで。愛しい人にチョコレートを渡す日であるのなら、それを知ったからにはやっぱり渡したいと思う訳で。
「あの、エース隊長、」
「ん? どうした?」
「 捨てて、もらっても構いませんから、 その、」
「 俺の作った、チョコレートのお菓子も、もらってくれません、か?」 ずるい、訊き方だったかも知れない。そう思った時には既に、全て声に乗せて唇を震わせた後で。完全に自己満足に過ぎないけれど、それでもそう言う日であるのならば。ああでも、それで愛しい彼が嫌な思いをするのなら、最初から渡さない方が良いのかも知れない。瞬時にそう思い直して、今の言葉を取り消そうと、下へと向けていた自分の顔を隊長の方へと向けようとした、そんな時、
「 っ?」
「 良かった、」
「あ、 え、エース、隊長?」
言葉を紡ごうと口を開いたのと同時に、エース隊長の腕が俺へと伸びてきて、胸元へと引き寄せられて、抱きしめられる。耳元で囁かれた隊長からのその言葉が、その声が、ひどく安堵のような、嬉しさのようなそれを含んでいるように、俺へと響いてくるものだから、(俺の中にも、隊長と似たようなそれらが、溢れ出してきて、)
「 ナースから聞いたって話してからも、普通に振る舞ってるように見えたから、もらえねェのかと思った。」
「 隊長?」
「 捨てるわけ、ないだろ、」
「 、」背中に伸ばされたその腕がさらに強くなった気がして、身体に心地よさが、愛おしさが満ちていくように感じて。響いてきたそのどことなく嬉しそうなその声に、俺はゆるゆると緩んでくる笑みを抑えきれなくなっていた。(嬉しいと貴方が思ってくれる事が、こんなにも、)
「俺にチョコレート、くれるか?」
Happy Valentine!!
のチョコレートなら、いくらだって食べるぞ? なんて言ってくれる隊長に、俺はゆるりと身体を預けた。