「(・・・困ったものだな、)」
はっきりとした理由があるわけでもなく、ただ何となく眠れなくて。何も考えないように呼吸音だけを聞くようにしても、俺の脳内は眠りへと落ちてはくれなかった。いっその事、もう朝までずっと起きていてしまおうか、その方が幾分か楽かも知れない。なんてそんな事を脳内に引っ張り出してきたそんな時、聞こえるはずのない自身の呼吸音以外の音が、扉の開く音が、俺の耳へと入ってきて。
「・・・カルラ、起きてるんだろい?」
「え、・・・え?マルコ、さん?」
足音と共に聞こえてきたのは、聞き間違えるはずのない、彼の声であって。けれど聞き間違えるはずのないその声が聞こえてきたからこそ、俺はさらに混乱を極めてしまったわけなのだけれど、何でこんな夜中に、どうしてマルコさんが俺の部屋に? すべての疑問を彼に投げかける前に、マルコさんは目を見開いて自分を見つめている俺を放って「入るよい。」なんて有無を言わさない言葉を俺に言いながら、俺のベッドへと、俺のすぐ隣へと入り込んできて。
「う、わっ、ま、マルコさんっ?」
「良いから、さっさと寝ろよい。」
「明日に響いたらいけねェだろ。」 ・・・別に、嫌な訳ではなかった。ただ単に突然マルコさんが現れて、そして急に隣で寝転がられた事に驚いて、マルコさんの名前を呼んだのだ。けれど、そんな俺の声を聞いていないのか聞いているのか、俺を自分の方へとさらに引き寄せて抱き込んだ彼から発せられたのはそんな言葉であって。
「・・・・見てたん、ですか?」
「さァな?」
そんなマルコさんの言葉に、今までの彼の行動が全て1つの理由に繋がっていく。誤魔化すようにそう言葉を紡いだ彼の顔には笑みが浮かべられていたけれど、たぶん、俺が甲板にいた事も、その理由が夜の空が綺麗だとか、そう言う理由でそこにいたんじゃないという事も、全て分かっていて、(・・・敵わないなあ、もう)
「 マルコさん、」
「ん?何だよい?」
「ありがとう、ございます。」
そして何とも現金な事に、先程まで眠れなくて困っていたはずの俺の脳内はいつの間にか睡眠を欲してしまっている訳で。響いてくるマルコさんのその愛しい声に、肌から伝わってくる彼の心地よい体温に、まるで先程まで視界に広がっていた海に包まれているかのような錯覚を起こして。
「ああ、朝になったら起こしてやるよい。」
「ほら、 カルラ、」 漸く引き出されたそれをさらに拡張させるかのように、俺の意識を遠のかせていくマルコさんのその声に、俺はもちろん拒むなんて事できずに、額に落とされたその感触に緩む顔を押さえきれないまま、俺は彼の腕の中で、ようやく眠るという行為にたどり着いたのだった。