「(お店の人と話し過ぎたかな・・・)」


いつも通りに親父さんにおつかいを頼まれて街から船へと帰る途中に、何かに引っ掛かって転んでしまった。悲しい事に、何も無いところで転けるのには慣れているからすぐに受け身を取る事はできたのだけれど、それでも打ち所が悪かったらしい。腕にかすり傷を作ってしまった俺は、自分の間抜けさにため息を吐きながら帰路を急いだ。



「おー、、今帰ったのか?・・・って、お前その腕、」
「ちょっと転んじゃって。それより、親父さんは?」
「オヤジならあそこの甲板にいるが・・・って、おい、!お前、腕っ!!」


帰りが遅くなってしまったのもあって早く親父さんに頼まれたものを渡したくて、船縁に寄りかかっていた仲間に親父さんの居場所を訊いた俺は、仲間の彼が腕を心配しているようなその声を聞きながらもそれを大丈夫だと答えるように笑みで返して、少し赤く色づいている腕をそのままに、親父さんの元へと急いだ。



「っ、親父さん、ごめんなさい。お店の人と会話していたら、つい、遅くなっ!!」


視界に入った親父さんの元へと駆け寄って、謝罪の言葉をそう紡ぎ出していれば、親父さんは何か言葉を発する前に俺の腕へと手を伸ばしてきて。掴まれた腕が、俺が転んで作ってしまったそのかすり傷のある方の腕であったから俺は走った痛みに、反射的に腕を引っ込めようとした。けれどもちろん、親父さんがそれを良しとするはずがなく、


「また、賞金稼ぎにでも襲われちまったのか?」
「  あ、いや、これは、その・・・」


「・・・・ただ、帰る途中で、転けて、しまって。」 俺のその反応に顔をしかめながらそう訊いてくる親父さんに、俺は小さな声で、情けないことこの上ないその傷の理由をぽつぽつと話す他に何をする事もできなくて。

呆れられてしまうだろうか、何度も作ってしまうそのかすり傷に、自分でさえも嫌気がさすのを抑えきれないままに、親父さんのその視線から離して自分の目を甲板へと落としていれば、俺の腕を掴んでいる手とは逆の手が、俺の頭へとゆるりと、優しく、


「あ、あの、親父さん?」
「グラララ! 怒るなんざしねェさ。まあ、多少は呆れているがな?」
「・・・う、その、」


「  お前ェはいつも同じ所に傷を作って帰ってきやがるな、全く。」 俺の頭をわしゃわしゃと撫でている手とはまた違った手つきで傷のある腕を優しく撫でてくれる親父さん。何も言うことができなくて、そのまま親父さんのそれを受け止めることしかできない俺に、親父さんはそう言葉を放ってくるのだけれど、その声色に、俺も知っている、心配してくれているような、愛しいそれが含まれている事を感じて、安堵感と共にゆるりと肩をなで下ろした。


「  親父さん、これ。」
「ああ、ありがとよ。」
「いえ、親父さんの為なら。」


それから転けながらも汚さなかったその頼まれものを親父さんに渡した。返ってくるその言葉に、俺はそれだけで自分の心がひどく躍っているのを感じて、単純だなあ、なんて思いながらも浮かんでくるその笑みを抑えきれずに表情へと出していると、親父さんが、再度俺の頭へと腕を伸ばしてきて、「   、」


「さっさと手当てしてもらって、ここに戻ってこい。」


「お前の入れる酒で飲みてェ。」  俺の大好きなその笑みで、愛しいその声で、そう紡いだ親父さんの言葉を理解した俺は、離れる手に名残惜しさを感じながらも、浮かんだ笑みをそのままに、「はい、」なんて嬉しさを滲ませてしまった声を漏らして、ドクターの元へと走り出した。

頭を撫でる

ドクター!あの、怪我を、手当っ!!    あー、とりあえず落ち着きなさい。すぐに手当するから。   はい、お願いします。    ああ、了解。(全く、オヤジに言われると素直に来るんだから、君は。)