ワインを飲んだ所為だろうか、いつもよりも早く身体に熱が周り始めるのを感じながら、どこか冷静な脳内でそんな事を考える。ああでも、冷静なんて言っているけれど、既に理性は融け始めていて。ふと目を開けば、視界の端にワイングラスの中で優雅に揺れる赤ワインを捉える。


「   おや、よそ見とはいただけない。」
「あ、いや、そういうつもりで、はっ、 」


重ねていた唇が離れたと思ったら、一言だけそう放ったイナズマさんは再度俺の唇へと自らのそれを重ねてくる。いつもワイングラスを持っているその長い指が俺の顔を捉えて離さなくて、酸素を求めようと口を開くのだけれど、さらに深く入り込まれてしまう。


「  ふ、  んっ、」


薄く開いたその隙間から息と同時に声まで漏れ出ているのを理解しながらも、それを止める術がないのだからどうしようもなくて。イナズマさんはそんな俺の声すらも楽しんでいるかのように、わざと隙間を作るようにして、入り込んでいる舌をゆるりと動かしてくる。


「  フフ、 、」


脳内にまで直接響いてくるようなイナズマさんのそんな声にまで、思わず身体をビクリと震わせてしまいながら、彼の俺を呼ぶ声に閉じてしまっていた瞼を開いてイナズマさんへと視線をやると、不敵に、けれどやはりどこか優しそうに笑っている彼の姿が視界いっぱいに広がって。ああもう、いつもこの笑みに、なんて思うところがあったりするけれど、でもそれは結局思うだけになってしまって、その笑みにやられてしまって、


「   イナズマさ、 あっ、 」


彼へと返事をしようと名前を紡ぐ途中で、首筋へとイナズマさんの指が降りてきて、ゆるりと滑らせてくるものだから、俺はまたおかしな声を出してしまった。そんな声を出す自分が恥ずかしくて、咄嗟に自らの手を当てて押し止めたくなるのだけれど、案の定、イナズマさんはそれを良しとはさせてくれなくて。口へと伸ばそうとしていた俺の手をもう一方の手でゆるりと掴まえてきて、


「  私は、その声が聞きたいんだが、」


「愛しい私のは、その声を聞かせてくれないのか?」 ・・・なんてずるい訊き方をするんだろうか、この人は。 そんな事をつい思ってしまいながら、放たれたそんな声に思わず言葉を詰まらせてしまう。首筋から、再度唇へと這い上がってきた彼の指が、優雅に踊るようにして、俺の唇へと触れて、撫でて、


「   ?? イナズマ、さん?」


すると突然、イナズマさんはサイドテーブルへと手を伸ばして先程俺が視界に少しの間だけ捉えていたそのワイングラスを手に取って、コクリと一口それを喉へと通らせる。そんな不意をつくようなイナズマさんの行動に、俺は疑問符を浮かべて見つめる事しかできなくて、訳も分からず揺れているそのワインと、グラスへと口をつけているイナズマさんを同時に見やっていると、イナズマさんの口の方が、俺へと近づいてきている気が、


「へ?  ん、ぅ、」


気がして、じゃなくて、本当に近づいてきていたようで。けれどそれに気付いた時には既に遅くて、イナズマさんに再度唇を奪われてしまった後であって。イナズマさんが口にしていたワインの香りが鼻を抜けて、ワインの風味が俺の舌へとじわじわと伝わってくる。それの所為か何なのか、ワインが口に中に含まれているわけでもないのに、水音がいつもよりも響いて聞こえてくる始末で。


「  、」


重ねられて、熱に浮かされるような感覚の中を漂っていれば、ふと聞こえたイナズマさんの声。それと同時に、ゆるりと唇が離れ、けれど顔を少しでも動かせば再び触れてしまうかのようなそんな距離のまま、イナズマさんは俺の名前を呼んで、続けざまに言葉を紡いで、「君の唇はワインよりも深みがあるから、」


「  もっと触れていたくなる、」


そう言ったイナズマさんの顔がえらく扇情的に俺の瞳に映ったのは、ワインの所為だろうか・・・それとも、(そんなの・・・お互い様じゃないですか、)










微かに残る風味

再度重ねられたそれに、俺は先程の言葉の返事をするかのように、自らそれを深めていった。






title by 赤小灰蝶 / 微かに残る風味