いつものように食後のコーヒーを飲みながら食器を洗っているサンジの背中を眺めていれば、急にかちゃかちゃと音を鳴らしていたサンジの手が止まって。何かあったのかと思い、「どうした、サンジ?」 なんて眺めているその背中から目を離さないでいれば、サンジが食器を洗っていれば合わないはずの視線がかち合って、近づかないはずの距離がどんどん縮まってきて。


「  サンジ?」


彼から視線を外せないまま、じっと瞳の中を食い入るように見つめながら、沈黙の中、何とか彼の名前を口に出す。どうして、何を? そう聞けば今の彼の行動の理由が分かるだろうに、けれど俺はそれを聞く事はしなくて、できなくて。


「   ん、」


近づいて、俺の目の前で止まったサンジは、俺が彼の名前を呼んだのを合図としたのか、身体をゆっくりと屈めてくると、そのまま俺の唇へと自分のそれを寄せてきて。突然のそれ、いや何となく頭の何処かで分かっていたのかも知れないけれど(でなかったら、ソファの縁に持っていたカップを置かなかっただろうから)、それでもやはり俺の意識はついて行けていなかったようで、角度を変えて、深まっていくそれに思わず酸素を求めるように吐息と共に声が漏れてしまう。


「  、」
「う、ん?  どうした、サンジ?」


離れる直前に、何ともわざとらしくリップノイズを立てながら、その直後に俺の名前を呼んでくるサンジ。乱れた呼吸を整えながら彼の声に返事をすれば、彼は俺の肩へとその顔を埋めて、ちくり、と首筋へと1つ刺激を与えたかと思ったら、彼の口は俺の耳元へと動いていて。


「  食後のデザートは、いらねェか?」


「俺は、欲しくて仕方がねェんだが。」 なんて、訊くには少し遅すぎやしないだろうかと思わせるそんな言葉を囁いてきたかと思えば、さらには俺の答えなんて結局聞き入れてくれないのだろうと思わせるような言葉まで付け加えてくる始末で。


「   ずいぶんと、反行儀的な誘い文句だね。」
「ん?」


「そういう言葉は、食べる前に訊くものだと思っていたけれど、」 甘噛みを止めない彼に何とかその刺激に出しそうになる声を抑えてそう言葉を返せば、甘噛みを漸く止めて俺の瞳に映り込んできた彼の顔に浮かんでいたのは、艶めかしい、その笑みであって。良い予感なんて過ぎりはしなかったけれど、それではゆっくりと喉を震わせて口を開いて言葉を出そうとするサンジを止めなかったのは既に俺が受け入れてしまっているからで、


「喰ってねェさ。今のは味見ってやつだ。」


「味見までしたからには、全部喰っちまわねェと、それこそ反行儀的だと俺は思うが。」 なんて先程の仕返しだというような、そんな言葉を放ったサンジは、先程の俺の言葉を聞いて了承と取ったのか、それとも元々了承なんて取る気が無いのか、呆れたと言わんばかりの深い息を吐いている俺の目の前で手を合わせれば、


「それじゃ、いただくとするか。」


妙に行儀良くそんな言葉を述べて、顔に浮かべているその笑みをそのままに、俺の唇へと再度喰らい付いてくるのだから、彼という人は本当に仕方のない、どこまでも愛しい料理人なのである。










アンチマナーに噛み付かれる

食器が重なる音が、唇が重なる音に、かき消されていく気がするのは、