読書をする気分でもなくて、かといって昼寝をする気分でもなかったから、ただ何となく甲板へと出て、船縁へと、目の前に広がるその海へと誘われるように身体を寄せていった。夜とは違った少し鮮やかな色が俺の視界へといっぱいに映し出された。今は穏やかに揺れてこの船を次の島へと順調に航海させてくれているけれど、それが途端に、俺達に牙を剥ける事だって珍しい事ではない。そんな気まぐれで、自由に揺らいでいるこの海が、俺は、
「( 貴方は、俺を、)」
そんな事を訊く事自体間違っている事くらい、分かっていた。彼らはいつでも自分たちに揺られている人を、平等に愛して、平等に試練を与える。この言い方をしたら、何だか海が神のように思えてならないけれど、別に俺は神なんて不可視な存在を信じちゃいない。けれど、目の前に広がっている、どこまでも深く、青い、この海は、
「 、」
後ろから、俺の名前を呼ぶ声がした。振り返らないでも分かる、海の波打つ音と同じように、どんな音とも違う、俺の身体へ、脳内へと染み込んで離れないその声が、俺に響いてきて。それでも、見つめるその海から視点を変えないでいれば、いつものように、彼は俺の隣へとゆるりと歩み寄ってくる。
「好きだな、お前も。」
「ふふ、貴方も好きでしょう、シャンクス船長?」
何を、だなんて訊かなくても船長と俺の間には共通の答えが存在していた。だから俺は彼にそんな返事が出来たし、「そうだな、」なんて船長も笑いながら返答をしてくれる。依存、なんて言葉が合っているかどうか分からないけれど、たぶん、俺の方が彼らに依存しているのだと思う。船長がその事を分かっているかどうかは分からなかったけれど、俺の言う好きと船長の言う好きはどこか、似ているようで似ていない、平行線のように思えた。
「海を愛すのは一向に構わないが、」
「??シャンクスせん、っ!」
「俺の側で、俺にもその愛を向けながら、にしてくれるか?」 顔が迫ってきたかと思えば、降ってきたのは船長の唇で。いきなりのそれに、驚いている俺をそのままに、続けざまに放たれたのはそんな言葉だった。語尾に疑問符を付けながらも、答えが分かっているかのような、顔に浮かべられているその笑みへと漸く焦点を合わせた俺は、(全く、ずるい訊き方を、)
「俺は離れませんよ。船長の側で、船長も大好きなその海を共に愛する事が、俺の幸せですから。」
「ああ、そりゃ良かった。」
「俺も、の側で海を愛するのが、大好きなんだ。」 そう言って嬉しそうな顔をしながら、俺の肩を抱いていた腕を俺の腰へと、背中へと回らせる。海とは違った、だけど海の香りもする、その温もりは、俺の愛おしくて仕方がない、
「愛してる、」
耳元で囁かれた言葉に、波打つ音と同じ心地よさと、溢れ出てくる別の愛おしさとが、俺の中へと染み込んでいったのだ。
世界との対話を試みる
貴方も隣にいる愛しい人も、どちらも無くてはならない存在で、
title by 赤小灰蝶 / 世界との対話を試みる