「・・・あー、・・・サン、ジ?」
真夜中、借りさせてもらっている家で眠っていた俺の身体の上に何故だかサンジの姿があって。
「ああ?何だよ。」
「・・・いや、 ええと、」
わずかに聞こえた物音に目を開けてみれば何とも理解しがたい光景が広がっていて。寝起きで全く頭の働いていない俺はサンジが俺の身体の上に覆い被さっているという事を飲み込むだけで精一杯で、サンジに言葉を返そうとしたのだけれど何を言えば良いのか分からなくて。
「・・・修行は、どうしたんだ?」
「四六時中追いかけられてるんじゃなかったのか?」 俺の頭は自分の置かれているこの状況を理解することよりもそちらの方に向いたようで。休憩が必要ならこんな場所ではなくもっと別の場所があるだろうに。そんな事をぼーっとする頭で思っていると、何だか先程よりもサンジの顔が近くなっているような、
「ちゃんと修行してるから、ここに来てるんじゃねェか。」
「・・・ちゃんと修行している事とここに来る事の関連性が見えてこないんだが、」
返ってきたサンジの言葉は俺をさらに混乱させるものだった。ちゃんと修行をしているから、ここに来る・・・?反復してもやっぱり理解できなくて、顔が近くなったから分かったのだが何故だか顰め面をしているサンジへとその意味を聞こうと口を開けば、
「! ん、っ」
暗闇だから遠近がよく分からなかったが、どうやらサンジと俺の距離はずいぶんと近くなっていたらしい。気付いた時には彼の唇で俺の開きかけた口は塞がれていた。その事に俺が気付いている間にもサンジの行動は妙に性急になっていて、唇を彼のそれで挟み込まれていたかと思えば、いつの間にか彼の舌が俺の口の中へと入り込んできて、
「ふ、 う、ん、」
何がどうしてこうなったんだろう? 彼の名前を呼ぼうにも鼻にかかったような声しか出せなくて、脳内ではそんな事が脳内を過ぎった。部屋の中で聞こえるのは情けないそんな俺の声と徐々に増してくるくちゅりと響くその水音だけだった。
「は、 っ、 さん、じ?」
ようやく唇を離してもらえた時にはもうすでに自分の唇はやけに湿っていて。やけに上がっている息を整えようと深く息を吸い込んでから、俺の口角へと指を這わせている彼の名前を呼べば、「ああ?何だよ、」なんて先程と変わらない言葉が返ってきた。けれど先程と違うのは何だよ、と口では言っているものの俺が質問をする事を許さないような声音だったということだ。
「・・・無駄に綺麗な顔しやがって、」
「・・・は? っん、ふ、」
ふと、彼がじっと俺の顔を見たかと思えば、聞こえてきた声は今まで以上に訳の判らないそれであった。突然放たれたその言葉に思わず気の抜けた声が出てしまったのだけれど、それすらもまた彼の唇で遮られてしまう。・・・誰かと勘違いしているのだろうか?ようやく働き出した脳内でそんな事を考えたのだけれど、「、」なんて俺の名前を呼んでくれるからその線は違うらしい・・・それにしても、
「 、」
そうやって俺の名前を呼ぶ彼の声がずいぶんと艶めかしいと思ってしまうのは気のせいだろうか。いや、声だけじゃない。暗闇の中で何とか見える彼の顔も、時折俺の顔を滑る彼の指も、全てが、
「う、ん? 何、だい?」
「今からてめェを食うからな。」
「覚悟しとけ。」 なんて少し遅い気もするがけれどちゃんと律儀にそう宣言したサンジのその声に俺が頷く以外の選択肢が浮かんでこなかったのは、きっと俺の脳内がまだ微睡みの中に沈んでいた所為か、それとも、
揺さぶる口元
彼の全てに俺の全てがやられてしまった所為か、
title by Light sky / 揺さぶる口元(身体的な10題)