遠い所から、俺の名前を呼ぶ声がする。けれど俺は眠っていて中々その声に反応できなかった。・・・というか、そもそも俺を起こす声がする事自体がおかしいのだ。1人暮らしで、昨日は友人も泊まってないというのに・・・何で、
「・・・なん、で、こえ、」
「フフ、ようやく起きたか。」
「相変わらず、君は寝起きが悪いな。」 何とか絞り出した言葉にやっぱり言葉が返ってくる。夢かとも思ったけれど、聞こえてきたその声が妙に鮮明で、俺の頬に触れてきた手が妙に温かくて、どうやら夢じゃなくて現実らしいという事をまだ働き始めてもいない脳内でなんとか認識する。
けれどたとえ脳がまだちゃんと機能を果たしていなくても、この声の主が誰であるかは分かってしまうくらいにこの声にも触れてくるその手にも俺は何度も・・・それに、何の承諾もなく俺の家に入る人なんて、この島には1人しかいない。
「・・・れいりー、さん」
「ん?何だ、?」
「また、人のいえ、に、かってに、」
今までに何度言ったか分からない言葉を俺はレイリーさんへとまだしっかりとしない情けない声で吐き出した。今度からはせめて前日までに知らせてくださいと咎めるように言う俺に、「気をつけるよ。」なんて言いながらレイリーさんはゆるりとベッドサイドへと腰を降ろした。
「・・・気をつけて、くれた、こと、ないです、よ。」
「おや、そうだったかな?」
俺の責めるような言葉にも、とぼけた返事をしながらレイリーさんは嬉しそうに笑うのだ。それはこうやって不法侵入で訴えられてもおかしくない事を何度もやってのける彼を、俺が本気で拒んでいない事を、それから俺が朝に弱くて、心地よくて温かい彼のその手に何の抵抗もなしに素直に擦り寄ってしまうのを知っているからで、
「フフ、普段からもこうやって素直になってくれると良いものだが。」
「・・・うる、さいです、」
口ではなんとか憎まれ口のような言葉を紡げたものの、身体の方はまだ理性が働いてくれなくて。後で羞恥心に襲われるのが頭の中で分かっていても、寝起きの俺には彼のその大きな手が、ひどく、(・・・絶対、口に出しては言わないけれど、)
「もう、ちょっと、」
「なんだ、まだ寝るつもりか?」
「もう昼に近いんだがね。」 コーヒーの香りが俺の鼻を擽る。どうやらレイリーさんが準備してくれたらしい。こういうところもずるいのだ。俺が朝に弱い事を知ってわざとこんな時間に俺を誘いにきて、コーヒーを作ってくれるなんて普段はしてくれない事までして、そして、
「ほら、そろそろ起きてくれ。一緒に散歩にでも行こうと思って寄ったんだ。」
「一緒に来てくれるか?」 ・・・なんて、普段なら俺の答えなんて聞かないくせに、こういう時に限って俺に答えを求めてくるところも、全部。いや、彼だけを責めることはできない事は分かっているのだ。こうやって勝手に入ってくる彼を本気で怒らなかったり、いくら眠いからって彼の手に猫が懐くように擦り寄ったりする俺も俺で、・・・そんな彼の誘いを一度だって断ったことのない俺も、
「・・・あと、10分したら、ちゃんと、」
コーヒーもいただきますし、散歩にも行きますから、でもやっぱりあと少しだけ。 声にならなかったその言葉はけれどしっかりと彼に届いたらしい。頬に触れていたその手を目元に擽らせるようにして滑らせたレイリーさんは楽しそうに、
「じゃあ、私はあと10分、君のその可愛い寝顔を堪能することにするよ。」
彼のその声を、その温かさを全身で感じながら、俺はあと10分だけ、心地よい眠りについたのだ。
柔らかさに身を浸す
そしてまた、自分の行為にえらく恥ずかしさを覚えて布団に籠もることになるのだけれど
title by Light sky / 柔らかさに身を浸す(おはようまでの10題)