「おや、か?」
「・・・レイリーさん、」


何だかやけに眠れなくて散歩と称して無法地帯の方へと足を伸ばしたその帰り、1番GRの人間オークション会場から出て来たのはずいぶんと知った仲である彼で。「レイさんと呼んでくれと言っているだろう?」 なんて暢気に言いながらこちらへと向かってくる彼に視線を向ける。そんな所で何してんですか、口に出していない言葉だったけれど、どうやら顔に出ていたらしくて「いやなに、少々賭博に使う金が底をつきそうだったのでね。」 なんて笑いながら片手にはそこから奪ったのであろう袋が彼の歩行に合わせて音を鳴らせて揺れていた。


「・・・人間屋で本来買うであろうものを買わなかったのは結構な事ですけど。」


それにしたって、人間屋にまで行って首輪まで付けてすることが金を奪ることだなんて。別に彼の身を案じている訳ではない、そんなことをしても杞憂に終わるだけだから無駄な事はしないけれど、それにしたって、この人は(全く、穏便に過ごしたいなんて普段言っているのはどこの誰ですか。)


「何だね、。もしかして私の事を心配してくれたのか?」
「そんなことあるわけないでしょう、冗談も程々にしてください。」
「・・・もう少し可愛げがあったら君もさぞ人気が出ると思うのだが。」


俺が返答したそばからまた冗談を口に出すレイリーさん。別に人気が出ようが出まいがそんなのには興味がないと知っているくせにそんなことを言ってくる彼に思わず深い息をついていると、「ん?」なんて何かに気付いた様子の彼は、そのまま俺の顔に手を近づけてきた。


「? 何ですか?」
「   また、君は。」


「あれほど夜の散歩をする時は無法地帯を歩くなと言っているだろう?」 なんて頬の一点に触れてそこから唇に向かって滑らせながらそう言ってくるレイリーさんの顔には少しだけ眉間に皺が寄っていた。先程、賞金稼ぎの急襲にあった時にでも出来たかすり傷だろう、血までは出ていないものの人の手が触れているとそれなりの刺激は来るわけで。


「あまり触れないでくださいよ、傷口に滲みます。」
「おや、滲みるのかね?」
「出来たばかりの傷なんですから、当たり前でしょう?」


そんな事を言いながらも彼の手を掴んで払い除けないのは触れてくる彼の手が心地よいと感じている自分がいるからで。太い、とは言えないけれど、決して細くないその手。その大きくて偉大な手は紛れもなく歴史が刻み込まれているあの海賊王の右腕だった手であって。もちろん右腕というのが物質的にそのものを表していない事くらい重々承知だけれど、それでもそう思わずにはいられなかった。


「レイリーさん、いつまでそうしているつもりですか。」
「痛いのなら、君の手で私の手を掴み取れば良いと思うが?」


それができないからこうして言っているのに、彼はそれを知っていながら笑みを深めて訊いてくる。「・・・知っているくせに、」  貴方の手が俺に触れる度に一種の安堵を感じていることを、その偉大な手に触れられる度に貴方から逃れられなくなっていることを。 


「ハハハ、まァ、何もせずに長く生きている訳でもないからな。」


苦し紛れに吐いた俺の言葉にそうして返事をしてくるレイリーさんは笑みを浮かべたまま俺の頬から自らの手をそっと離して、今度は俺の手にそれを絡めてきた。その突然の行動に思わず声を上げそうになるけれどそれすらもこの人は許さなかった。


「さあ帰るとしようか。私達の、家へ。」


俺の返答を聞かないまま、彼はそう言葉を放つと絡めている手に少しだけ力を込めてその方向へと歩を進め出す。彼は無理強いをしない人だからその手から逃げ出す事だってできたはずなのに、それでもその背中に反論の言葉を投げることをしなかったのは彼の言葉が有無を言わせぬそれだったからか、それとも俺が

まるでゆりかごに揺られているかのように

その広い背中も、絡めているその大きな手も、俺にとっては代役なんて存在しないものであって