「・・・(いねえぞ、また。)」
むくりと起きて隣を見れば、家族になって間もない、船で1番幼いの姿がそこにはもうなくて。時計を見ても、それから、豪快ないびきが聞こえてくる周りからも分かるように、朝飯の準備をするコックしか起きてないそんな時間だというのに、昨日も俺の隣でぐっすり寝ていたはずのの布団は綺麗に三つ折りにたたまれていた。(…子どもだっつうのに、この頃から妙にしっかりしてたというか、何というか。)
「・・・俺も起きるか、」
がいなくなったからと言って、慌てることもなく、俺はゆるゆると重たい体を動かし始める。・・・そりゃ、最初の頃は慌てたさ。早朝、寝ぼけたままで何となく隣を見たら、そこにいるはずの可愛い弟分がいねえんだ。飛び起きて周りの奴らをありったけの大声で起こして探し回った事もある。
「さて、(とりあえず、飯食う前に確認しに行くか。)」
だが、何度かそんな事を繰り返していくうちに、が寝床を早朝に抜け出している理由をすぐに把握する事になって。いや、考えてみれば、幼いがわざわざ早起きして行くとこなんて限られている…というか、1つしかないことくらい分かるじゃねえかって話だが。
グキ、と関節を鳴らすその音がやけに響く通路へと出て、甲板へと真っ直ぐ足を向ける。そこにいるのは、が早起きする理由で、この船の中でたぶん1番早起きであろう、俺達の敬愛する、
「オヤジー、がもう寝床にいねェんだけど、オヤジのとこにいる・・・、よな、やっぱり。」
「グラララ。あァ、ここで二度寝してるぜ。」
「危なっかしい足取りでここに来たかと思えば、すぐに寝ちまった。」そう言葉を紡ぐオヤジの膝元には、猫よろしく体を丸めて気持ちよさそうに眠っているがいて。体がまだ小せえから、ホントに猫に見えちまうよな。なんて思いながら、全く起きる気配のないへと視線を落とす。
「・・・のやつ、ホント好きだよな。」
何を好きなのか、それをわざわざ言葉にしなくても今の状態を見れば誰にだって分かるし、オヤジにもきっと伝わっているだろう。ぽつりと呟いた俺の言葉に反応するように、オヤジの顔に浮かんだその嬉しそうな笑みがその証拠だ。寝癖が思いっきりついているの頭をオヤジは優しい手つきでくしゃりと撫でた。
「グラララ、俺が起きて甲板に出る音が聞こえるそうだ。」
「・・・犬じゃあるめえし。」
「グラララ!まァそう言ってやるな。」
俺が素直な返答をすると、オヤジはそう言ってゆるりと笑った。確かに、は普段からえらく聞き分けが良い子どもなのだ、それこそ兄貴分である俺達が甘えるなと怒るどころか、「もっと甘えてくれよ!」なんて言ってしまうくらいに。
「親からしてみれば、可愛い行動に見えるってもんだ。」
だから、オヤジも早朝に見られるのそんな行動を、余計と嬉しく感じちまうんだと思う。オヤジが大好きだと言うくせ、甘える事を知らない所為かあまり親を、兄貴を頼らない子どもが、そうやって分かりやすく甘えを見せてくれてるんだ。そうされれば、俺達だってこれでもかってくらい甘やかしちまうだろう。だから、もちろんオヤジだって、
「ん、にゅーげえと、さん?」
「グラララ、起こしちまったなァ。」
オヤジと俺がそんな会話をしていると、どうやらの耳にもそれが届いてしまったらしい。重たくて上がりきっていない瞼をこすりながら、のそのそとが起き上がってきて。・・・だけど、「もう、おきるじかん、?」拙くなってしまっている言葉でオヤジを見上げるに、オヤジがかける言葉は、もちろん、
「いいや、まだそんな時間じゃねえぜ。」
「海だってまだ暗いだろう?」と同じ視線で海の方へと指をやったオヤジはがなんとか起こして、伸ばしたその背中を、寝かしつけるために親が子にする時のように優しく撫でて、「いつもみてェに、起きる時間になったら俺が起こしてやる。」
「だから、まだ眠ってても構わねェよ。」
そんな言葉とひどく優しいオヤジの声が甲板に響く、なんて光景を、が家族になった頃はよく見たもんだ。懐かしいよなァ。なァ、?
膝の上の特等席
「ん、おやじ、さん、」 まあ、懐かしいつったって、今でもそれはたまに見る光景な訳だが
title by Lump / 膝の上の特等席(Short)