「・・・何だ、誰かと思えば、ニューゲートじゃねえか。」
「グラララ、相変わらずみてェだな。」
いつものようにロッキングチェアに揺られながらパイプを燻らせていれば、えらく久しい気配がして、その後にそんな言葉が俺へと紡がれる。別にその姿を視界に入れなくとも、昔からの馴染みだという事は分かっていたのだが、それでも俺がそちらへと視線を向けたのは、その気配の他にもう1人のそれも感じられたからで。
「・・・何だ、ガキ自慢をしに来たのか?」
「グラララ! まァ、そんな所だ。」
「お前のとこに顔を見せに来たのはそのついでだ。」 なんてそんな事を俺に言いながらも、ニューゲートの意識はすでに肩に乗せていたガキの方へと行っているらしく、「大丈夫か?」なんて言葉をかけながら、そいつをゆっくりと地面へと降ろした。
そうすると、何ともまあ痛々しいくらいに足に包帯を捲いているガキの方はすぐに「う、 すみません、親父さんの手を煩わせてしまって、その、ありがとうございます。」と奴にお礼を言ったかと思えば、くるりとこちらへとその顔を向けてきて、
「あ、あのっ、初めまして。白ひげ海賊団、2番隊隊員のと言います。」
「その、こんな格好ですみません、まともなお辞儀もできなくて、」 松葉杖に身体を支えてもらいながら、俺の方へと近づいて、ガキ―はそう俺へと挨拶をしてきた。ずいぶんと礼儀がなってるガキじゃねえか、なんてそんな事を思いつつ、「ヘイルだ。よろしくな、。」と頭を撫でつつ返事をすれば、人懐っこそうな笑みが返ってくる。
「はい、よろしくお願いしますっ。」
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それから、少しばかりとニューゲートと、奴らの出会いやら普段の話やらを聞いていたんだが、ふと、がゆるりと立ち上がって、
「あ、あの、俺、そこの海岸で海を見ていても、良いですか?」
「遠くまでは、行かないようにしますから、」 最後の言葉はおそらくニューゲートの方へと紡がれたんだろう、止められると思ったのかも知れねえ。だがその言葉に、ニューゲートが答える前に俺が「じゃあこのロキと遊んでやってくれねえか。そこにある枝でも投げてやれば、喜んで追いかけるからよ。」と俺の隣で遊びたそうに尻尾を振っていた大型犬のロキを見ながらそう言葉を返せば、は俺の顔を見てから、すぐにニューゲートの方へと許可を求めるように顔を上げて、
「ったく、無理はすんじゃねェぞ?」
「っ、はい!」
こいつの許可を聞いた途端嬉しそうな顔をして、「行こうか、ロキ。」と普段は人に懐かねえはずのロキをいとも簡単に従えて、そのまま海岸へとゆっくりとした足取りで(松葉杖を使ってんだから当たり前っちゃ当たり前なんだが、)、俺とニューゲートの側から離れていって。
「 ・・・ずいぶんと気遣いのできるガキを拾ったモンだな。」
そうして海岸でロキと遊び始めたへと視線を向けつつ、隣に腰を落ち着かせたニューゲートへと声をかける。積もる話でもあると思ったんだろう、とってつけたような理由だったが、それでも俺達に気を遣わせまいとしてそう言葉を放って俺達の下から離れたのは事実だ。
本当に海賊か、あいつは、なんて先程から見せる海賊の性格とは真反対のそれを持ったを眺めながら、そんな事を思っていれば、隣からは、「グラララ、あァ、あいつは昔っからああいう息子なんだよ、」
「 周りにばかり気を遣って、自分の事を後回しにする癖があってな。」
「・・・ああ、あの足も、それが原因か。」
ニューゲートのそんな返事に、そして奴のその言葉を放った時に向けられていた視線に、俺はすぐにの足の原因へと辿り着いて。質問、というよりは確認の色を含んだそれで言葉を返す。大方、お前に武器が向けられていたから自分が庇って、とかそう言った理由だろ。と話したのは先程の小一時間程度だが、その時間だけでもが自分を顧みない奴で、そしてニューゲートを何よりも大切にしているって事はすぐに理解できた。だから、そう言葉を紡いだんだが、「グラララ、普段は聞き分けが良いんだがな、」
「こればっかりは、昔っから言い聞かせてるっつうのに、聞かねェんだよ。」
「困ったバカ息子を持つと苦労する。」 零れたそれは苦笑にも似た色だったが、その割に顔に浮かんでいるのはえらく嬉しそうなその色で。・・・ったく、息子がてめェをかばって怪我をしたってのに、その緩みきった笑みはどうにかならねえのか?けれどそれを言葉にすることはなく、代わりに出たのは、奴の久しぶりに見たそんな顔、昔見た海賊らしいあの笑みではない、息子を思う優しそうな笑みを見たモンだから、
「・・・良い息子じゃねえか。それだけ、親を愛してるってことだろ。」
だから、親子バカっぷりをさらに当てられちまうと容易に想像できていながらも、思わずそんな言葉を口にしちまったのだ。返ってきたのは案の定、「グラララ! あァ、それが分かってるから、尚更困ってんだよ。」 理由が理由だから、怒るに怒れねェ。なんてそんな言葉と、これまた困ったと言ってる割にはそんな色とは正反対の顔色で。
そんな顔に愚痴の一つでも言ってやりたいとこだったが、それはニューゲートの持ってきた酒と一緒に飲み込んで、「で、俺を訪ねに来た理由は何だ?」と話を前に進めようと、したんだが、
「グラララ、だから、お前のとこに寄ったのはついでだと言ったじゃねェか。」
「・・・はあ?」
返ってきたのは予想していなかった言葉だったから、視線だけ向けていたというのに、驚いた勢いで思わず体ごと奴の方へと向けちまって。・・・だが、そこには変わらず笑みを浮かべて、会話をしている俺の方ではなく、その可愛くて仕方がねェ息子とやらに顔を向けているバカがいて。・・・どうやら俺は、こいつの息子への愛情を量り違えていたらしい、
「・・・俺をダシに使いやがって。」
「グラララ!だから、いつもよりも上等な酒を持ってきてやったじゃねェか。」
理由の詳細を訊くのはやめておいた方が俺の為だと思ったから訊きはしながったが、己の息子のために俺を使いやがった事にだけはすぐにピンと来て、嫌みったらしくその本人へと文句を吐き出す。だが、痛くも痒くもないらしい奴は俺へとしれっと当たり前のようにそんな言葉を放ってきやがって・・・くそ、これだから親バカは、
「さて、用も済んだ事だ、あいつを連れて帰るとするか。」
「あまり海岸で遊ばせると、また転んで怪我を悪化させかねねェしな。」 端から聞けば、過保護としかとれないその言葉を紡ぎながら、ニューゲートは用は終わったと言わんばかりにすっと立ち上がって、海岸の方、というよりの方へと歩いていって、 「 、」
「そろそろ帰るとするか。」
「話はもう良いんですか?」
「あァ、話は済んだ。すまねェな、気を遣わせちまって。」
「い、いえ、その、良いんですっ。俺もロキと遊ばせてもらって楽しかったし、それに、」
「親父さんが、ヘイルさんとの会話を楽しんだのなら、それで俺は、」 ・・・本当に、泣けてくるくらいに父親が大好きな息子らしい。そしてもちろん、そんなの返事に、息子が大好きで仕方がねえらしい親父の方はと言えば、ゆるりと笑みを浮かべながら、頭へと手を伸ばして、
「グラララ、ありがとうよ。」
「優しい息子が手伝ってくれたおかげだ。」 くしゃりと、いつもそういう風にやっているだろうと思わせるくらいに手慣れた様子で優しく撫でて、
「さあ、帰るか。 あァ、もちろん、帰りも俺の肩に大人しく乗ってるんだぞ。」
「・・・う、」
そんな会話を聞きつつ、見てるこっちが呆れるくらいの仲睦まじそうな親子の背中を背景に、俺は再度ぐいっと酒を呷った。
優しい蜜蜂
・・・おい、結局、俺は惚気話に付き合わされただけじゃねえか。 ワン! ・・・ロキ、お前もそう思うか。
title by Lump / 優しい蜜蜂(Short)