「!おっ、・・・」
・・・けれど、成長したことで、その大好きな親父さんが一体世界ではどう見られているのか、そしてそれに対して俺の立場はどうなのか、という事を次第に理解していくようにもなったのだ。・・・だから、子どもの頃は、こんな自分を拾ってくれた優しくて良い人で自分の大好きな人、としか思っていなかったのに、自分の視界に親父さんの姿が映ると、すぐに親父さんの名前を呼んで彼の元へと駆け寄っていたのに、
「・・・(どうしよう、)」
俺なんかが彼の側に行っても良いのか、そんな考えが成長と共に俺の中に生まれてしまって、今ではその考えが親父さんと呼ぼうとしたその口を押しとどめ、駆け出そうした足を躊躇わせるのだ。本当なら子どもの時のように大好きなその人のもとへと一目散に飛び込んで行きたいのに。でも白ひげ海賊団の船長で、世界中に知られているそんな偉大な人に俺なんかが・・・ぐるぐる、ぐるぐると2つの考えが混ざり合って、戸惑って、
「 、」
けれどそんな事を考えていても、その人の声は思考を遮って俺の身体へと入り込み、俺の目をそちらへと向かせるのだ。呼ばれた瞬間に、俺の身体はビクッと震え続けざまに勢いよく親父さんの方へと顔を上げた。けれど何で親父さんは俺がいる事に気付いたのだろうか?それほど近くに居たわけでもなく、目を合わせた訳でもないのに、どうして俺の事を、
「っ! 親父さんっ。」
どうして、と思うのだけれど、でもやっぱり親父さんに気付いてもらえたこと自体が嬉しくて、名前を呼ばれた事がどうしようもなく幸せで、俺の足は自然と親父さんの方へと駆け出していくのだ。親父さんの側で足を止め、何か用事だろうかと尋ねれば、「用があるのはの方じゃねェのか?」と言われる。
「え? 俺、が、ですか?」
「何だ、違ったのか?」
「俺は、お前が何かを我慢してるように見えたんだが。」 紡がれた言葉にまさかそんな事を言われると思っていなかった俺は誰が見ても分かりやすいくらいに身体を震わせてしまった。どうやら先程の中途半端な行動を親父さんに見られてしまっていたらしい。けれどそれがばれたところで、親父さんにその経緯を言っても良いのだろうか。
「ええ、と、 ・・・その、」
親父さんからの言葉だ。返事をしなくてはいけないのに出てきた言葉は意味を成さないそれで。親父さんの事だ、俺が側に行きたかったのだと告げれば、きっと嫌な顔1つせずに俺を受け入れてくれるのだろう。そう、親父さんが云々というのでは決してなく、これは俺自身の問題であって、
「何だ、俺には言えねェ事か?」
「!!いや、あの違うんです!」
言おうかどうか迷っていれば、親父さんからそんな言葉が降ってきて俺はすぐにその言葉を否定した。「違うんです、俺が、俺の問題で、親父さんに言えないとか、そうじゃなくて・・・」 必死に親父さんに紡ごうとするのだけれど、出てくる言葉は支離滅裂になってしまって。自分の拙さがあまりに情けなくて思わず頭が下がってしまった。
・・・けれど、そんな俺の言葉でもちゃんと受け取って、俺に答えてくれるのが、我らが親父さんであって。
「っ! あの、親父、さん?」
ゆるりと俺の頭に触れたその大きな手がぐしゃりと俺の頭を優しく撫でてくれる。突然のそれに俺は疑問符を浮かべながら、親父さんの方へと再度顔を上げて、
「グラララ、お前はまたくだらねェ事を考えやがって、」
「どこでそんな考えを覚えてきたんだ?」 続けて聞こえてきた言葉に、けれど俺は未だに理解できていなくて。見上げる親父さんの顔には少しだけ苦笑の混じったその笑み。でも俺にはその顔がひどく優しく見えて、
「 親父さん、」
「グラララ!要らねェ事考えてねェで、子供は子供らしく親に甘えてりゃあ良いんだ。」
「!」
紡がれたそんな言葉に、ようやく俺は自分の考えていた事までも親父さんにばれていたのだという事に気付いた。先程までどうしようとぐだぐだと考えていたのに、衝動を抑える事ができていたのに、顔を上げれば見えるその優しい笑みに、聞こえてくる愛しいその声に、身体中から親父さんに飛びつきたい気持ちが溢れ出してきて、
ぽん、と促されるように軽く背中を撫でられ、親父さんの俺の名を呼ぶ声を聞いてしまえば、 「 、」
「グラララ、 ほら、飛び込んで来い。受け止めてやるから。」
跳ね上がる胸
ぱちん、と、俺の中の何かが弾けた音がした瞬間、俺はすぐに貴方のもとへ飛び込んでいったのです。
title by Light sky / 跳ね上がる胸(身体的な10題)