春島を出発して2週間は過ぎただろうそんな頃、少しずつ気候が安定してきているのをみんなが感じとって、船の上では次の島へはどんなのだろうかという会話がそこかしこから聞こえ始めた。もちろん、俺も例に漏れず、そんな穏やかな海を航海する船の上で、次の島へと思いを寄せているうちの1人だった。

・・・ただ、親父さんの膝上に座らせてもらう、というのは他のみんなとは違ったけれど。


「ふふ、親父さんは、次はどんな島だと思います?」
「グラララ、嬉しそうな顔しやがって。」


嬉しくて仕方の無いその場所で、親父さんの方を見上げながらそう声をかける。そうすれば、どうやら親父さんが笑ってしまうくらいに、俺の顔は緩んでしまっていたらしい。聞こえてきた親父さんのそんな言葉に、次の島への期待感と親父さんの膝上に乗せてもらっている嬉しさとが一緒になって顔に出てしまったんです。と紡げば、親父さんは大きく笑いながら、ゆるりと俺の顔へと指を滑らせてくれたものだから、それに心地よさを感じて俺はさらに頬を緩めてしまう。


「お前はどんな島だと思うんだ?」
「俺、ですか? ・・・そうですね、ええと、」


親父さんにそう訊かれたから、俺はいつものように、船の上へと吹いてくる潮風へと目を瞑って嗅覚だけを研ぎ澄ませる。次の島の風土を知るにはその周りを囲んでいる海で感じ取るのが一番確実な方法だと俺は思うから、親父さんに訊かれた時はいつもこの方法をとるのだ。


「・・・次は、たぶん夏島です。ええと、季節は、秋、だと。」
「グラララ!相変わらず、不思議な方法で調べるな、お前は。まァ、それで当たるんだから大したモンだが。」 
「海の匂いが全く違うんです。・・・その、どう説明して良いのか、分からないんですけど、」
「それは、お前が海をそれだけ愛してるからだと思うぜ?」
「俺が?」
「あァ、そうだ。」


「お前がそうやって海を愛するから、海の方もお前に懐いて、天候を教えてくれてるんだろうよ。」 全く根拠はないけれど、親父さんにそう言われると、本当にそうだと思えてくるから不思議だ。それに、本当にそうだとしたら、俺も嬉しい。俺が海が好きなのだと言うことを、海が知ってくれて答えてくれて、・・・ああ、でも。

海を愛しているのは本当だし、海の方が俺に近寄ってくれるのも嬉しいけれど、・・・でも、やっぱり一番は、


「でも、 俺は、親父さんの事が一番大好きですよ。」


はっきりと何を躊躇するでもなく伝える事ができるその言葉。潮風が好きなのは、海の匂いが好きなのは、俺をあの島から連れ出してくれた貴方の腕から初めて感じたその匂いだからで、輝くその水面が好きなのは、親父さんの目と似ているからで。

次の島への期待も、きっとそうなのだ。その島で親父さんと一緒に何ができるか、何か親父さんの好きなものがあるだろうか、なんて、考える事は全て、


「グラララ! ・・・全く、お前はそうやって、」
「わ、わわっ、 お、親父さん?」


親父さんの方へと再度顔を向けてそう言葉を紡げば、親父さんは俺の頭へと手を伸ばしてきて思いっきりそこをわしゃわしゃとその大きな手で撫でてきた。突然のそれに訳も判らず、けれど親父さんに撫でられて悪い気なんてするはずもないから、撫でられるままに親父さんへと声を掛ければ、親父さんは、たぶん、俺の見間違いじゃなければ、嬉しそうに笑いながら、


「目の前にあるこの海だって、お前に懐いてんだ、」
「あ、あの、親父、さん?」
「それなら、俺は、そうやって俺を愛してくれるお前に、それ以上の愛をお前に惜しみなく注いでやらねェとな?」


次々と親父さんの口から出てくるそんな言葉に、俺は数秒遅れながらなんとかその言葉を理解しようと脳内へと入れ込む。けれど、理解しようとかみ砕いて行く毎に、俺の顔に熱が集中している気がしてならなくて。何か、俺の聞き間違いだろうか、なんて一瞬思ったりもしたけれど、その言葉に顔を赤くしながらも、やっぱり嬉しいなんて感じてしまっている自分がいて、・・・それに、


「さて、受け取る準備は出来てるか、?」


そうやって、楽しそうに続けて放ってくる親父さんのその言葉が、俺の耳へと聞こえてくるものだから、(・・・どうやら、さっきの言葉は聞き間違いなんかではなかったらしい。)(・・・ああ、どうしよう、本当に、とてつもなく、)

噛み締めた愛情

愛しい息子に大好きだなんて言われて、我慢できる親なんざいるわけねェだろ? なんて耳元で囁いてくれる親父さんの声はとても心地よく俺の身体に響いてきたのです。



title by Lump / 噛み締めた愛情(Short)