「ん?ああ、確か珍しいモンが入ったって言ってたからなァ。大量に入手できたらしいから、お前も後で行ってみな。あの酒は上玉だ。」
ドクターに頼まれて、買い物に行った後、店の人に聞いたその言葉に、頼まれモノだからと急ぎ足をしていたその歩を、さらに早めて、船へと駆け出す。俺の聞き間違いじゃなかったら、たぶん、その聞き覚えのある、お酒の名前は、
「 ・・・親父さんっ!」
船に戻ってすぐ、ドクターへとおつかいの品を渡してドクターからの声を受け取りながらも、そのままの勢いで甲板へと駆け出して。少し歩を進めれば、すぐに見つけたその人の姿。その背中が見えるや否や、気が付けば俺はそう声を出していた。
「グラララ、どうした?」
「今日は、一段と嬉しそうじゃねェか。」 微笑んでくれながらそう言って、駆け寄った俺の頭を撫でてくれるのは我らが親父さんで。そんな親父さんが紡いだ言葉のように、やっぱり俺の頬はいつも以上に緩んでしまっているらしい。緩む頬をそのままにして、親父さんのその大きな手を受け入れていれば、「で、お前ェにそんな顔をさせてる理由は何だ?」 なんて親父さんが言葉を紡いでくれて、俺はそれに答えようと、ゆるりと口を開く。
「ふふ、さっき、街の人から聞いたんですけど、」
「親父さんの好きそうなお酒が売ってあるお店があるみたいなんです。」 そう親父さんへと声を弾ませながら、お酒の名前も一緒に紡ぐ。その事を聞いた時、まるで、自分の好きなものを見つけたかのように嬉しくなったのを思い出して、親父さんがこうして頭を撫でてくれているというだけも、顔をこれでもかってくらい緩ませていたのに、さらに尚、自分の顔が緩んでいく気がしてならなかった。
「グララララ! ったく、何をそんなに喜んでるかと思ったら、」
「あ、あの、それで、俺っ、もし親父さんが良かったら、!」
普段、それ程使うことがないから、あのお酒を買えるくらいのお金はあったはず。そんな事を思い出しながら言葉を紡いで・・・いたのだけれど。頭を撫でてくれていた親父さんの手が、動かしていた俺の口をゆるりと塞いできた。親父さんのそんな突然の行動に、口にあるその手の感触に、もちろん俺は驚いてしまって、びくりと身体を情けないくらいに震わせてしまう。
「??(・・・あの、親父、さん?)」
「その店の場所は教えてもらったのか?」
どうしましたか? 口が塞がれて声を出せない状況にあったから、顔を上げて視線だけで親父さんへとそう反応を返せば、やっぱり通じなかったのだろうか、俺へと返ってきたのはそんな言葉であって。でも、俺のそんな疑問よりも親父さんのその質問に答える方が俺にとっては大事であったから、その場所を知っていると答える意味でゆるりと首を縦に動かした。
「グラララ、そうか。 なら、案内してくれねェか?」
「え、 ? あ、の、 親父、さん?」
「その店に、まだ上等な酒があるかも知れねェだろ?」 親父さんの手が俺の口元から離れるのと同時に紡がれたその言葉に、脳内での理解が追いつかず、咄嗟に紡いだそれは間の抜けたような返事になってしまう。親父さんを、俺が案内する、という事は、・・・どういう事だろうか?思考がぐるぐると慌ただしく脳内を駆け回って整理できないでいると、親父さんは、そんな俺の頬へとゆるりと伸ばして、添えてきてくれて、微笑みながら続けて、口を開いて、 「 それに、」
「久しぶりに、愛しい息子と散歩してェと思ったんだが、」
「いけねェか?」 見上げた視線から聞こえてきたそんな柔らかな声が、俺の耳元へ、脳内へ、身体中へと染みこんでいくのが分かった瞬間、俺の顔は、きっと緩み出していたに違いない。「?」 なんて、その言葉に固まっていた俺の身体を動かしたのもやっぱり親父さんの声で、俺はその声にはっと現実へと思考を戻して、急いでその言葉を述べたんだ。 「い、いけなくないですっ、そのっ、嬉しいです!!嬉しいです、からっ、」
「今、今すぐ準備してきますっ!!」
自分でも、いまいち文が繋がってないと気付きながらも、それでも親父さんに今伝えたい事を精一杯伝えた俺は、緩んだ頬をそのままに、準備をするべく自分の部屋へと、ここへと来た時と同じように、慌てながら駆けだした。