頼み事を引き受けた時の彼の顔と言ったら。見ているこちらも笑みを浮かべてしまうくらいに、本当に嬉しそうな笑みを顔に浮かべながら俺に手を振る彼を見送った後、早速俺は見張り台へと上って一面に広がる海を眺めようと今日の予定を決めていたはずなのだけれど、
「グラララっ、何だ、。お前ェは行かなかったのか?」
「あ、親父さん! って、あ、」
縄へと手をかけて、見張り台へと上ろうとしたそんな矢先に、俺へと声をかけてくれたのは親父さんであって。親父さんも街に出かけていると思っていたから、聞こえてきたその声に嬉しさよりも驚きの方が最初に先立ってしまって、つい、縄にかけていた手を緩めてしまう。
「グラララ!危ねェ事しやがるな、まったく。」
「す、すみません、つい、」
身体を甲板に打ちつける衝撃が来なかったのは、親父さんが俺の身体を受け止めてくれたからで。甲板へと身体を降ろしてもらいながらそう言葉を紡げば、「まァ、怪我がねェならそれで良い。」 頭を撫でてくれながら親父さんがそんな言葉をくれるものだから、つい、申し訳なさに顔を歪めていたはずなのに、ゆるゆると、筋肉が緩んできてしまって、
「で?どうしてここに残ってる?」
「船番だった人に頼まれて、ですね・・・」
「またあいつはカジノに行ったのか?懲りねェな。」
誰、と名前を直接出した訳ではなかったのだけれど、親父さんはすぐにピンと来たらしい。ため息混じりに俺へとそう返事をしてくれる親父さんへと俺も苦笑を漏らしてしまう。途中までは、確実に勝つような手しか打たないのに、最後の最後で大博打をしかけてしまうのだから、もったいない事この上ない。そして、結局プラスマイナス0に近い額で泣きながら船へと戻ってくるのだから仕方のない人である。
「すみません、あの顔を見ると、つい、承諾してしまって・・・」
「グラララ!まァ、らしいがな?」
それでも、断れなかった俺にも非がない訳ではなかったから、親父さんへとそう言葉を紡ぐ。けれど、そんな俺に、何を咎める訳でもなく、頭を再度撫でてくれながら、「あァ、そうだ、、」なんて、俺の名を呼んでくるから、
「はい、何ですか、親父さん?」
「あァ、食堂へ行って、酒をもらってきてくれねェか?杯は、2つだな。」
「え、 あの、?」
何だろうかと返事をすれば、聞こえてきたのはそんな言葉で。親父さんはどうしてここに残っているのか聞こうとした矢先に響いてきたそれだったから、つい、間の抜けたような情けない声を出してしまいながら、親父さんへと意味が伝わらないであろう言葉を紡いでしまう。
ああ、誰か招いているのかな、 なんて、その考えが漸く俺の脳内で浮かんできて、自分の考えていた都合の良いそれに恥ずかしさを感じてしまいながら、同時に居たたまれなくなって、親父さんから思わず目を逸らしてしまいつつ、すぐに食堂へと走ろうとした、そんな時、くいっと、腕を掴んで、俺の足を止めて、
「あァ、もう1つ、訊くのを忘れてたな、」
「え、あ、親父、さん、?」
甲板へと、俺の身体へと、その声を響かせたのは、 たった一言で俺の心を踊らせてくれるのは、
「晩酌、付き合ってくれるか、?」
やわらかく とけた
「い、いってきます!!」 なんて、嬉しすぎて出してしまった俺のその言葉は、甲板へと大きく響いてしまって。
title by capriccio / やわらかく とけた(小夜曲 第八番)