「 ふふ、親父さん、温かいです。」
「グラララ!そりゃァ良かった。」
「乗せた甲斐があるってもんだ。」 カモメが目を覚まして鳴き始めたのも、親父さんが俺の身体をひょいっと簡単に持ち上げて、自分の足へと乗せて引き寄せてくれたのも、つい先程の事で。こてん、と、身体を傾ければ、親父さんの大きくて、温かいその身体が俺を支えてくれて、温めてくれる。
何でもない、そんな日常だけれど、それが俺にはとても心地が良くて、愛おしくて。目を瞑ってしまえば、視界に広がっていたその海が見えなくなってしまうのだと分かっていても、その心地よさに思わず目を閉じてしまいたくなるのは、仕方のない事だと、俺は思うわけで、
「俺、この時間が大好きです。」
「グラララ、あァ、そうみてェだな?」
「いつもよりも、顔が緩んでやがる。」 俺の頭を撫でてくれていたその手が、そんな笑い声と一緒に俺の頬へと降りてきて、俺へと言葉が返ってくる。親父さんが笑ってしまうくらいに、そんなに緩んでいたのだろうか、なんて考えると、少し恥ずかしいようにも感じられたけれど、それよりも、何よりも、(親父さんも笑ってくれる、親父さんの側にいられる、この心地よい空間を、)
「 あの、親父さんは、その、」
「ん?」
この空間が俺にとってはひどく心地の良いそれであるのだけれど、親父さんはどう思っているのだろうかと、ふと気になって。 けれど、いざ口を開いてみれば、親父さんからの返事がどんなものになるだろうかと考えると、なかなか言葉を声に乗せる事ができなかった。結局、そのまま臆病風に吹かれてしまった俺は、何でもないですと、散々親父さんの顔と自分の手を行き来していた視線を再度親父さんへと合わせて、そう声を出してしまおうとした、そんな時、
「なんだ、続きは訊かねェのか?」
「 え、? 」
「グラララ!そんな顔してりゃァすぐに分かる。」
俺の言葉よりも先に、親父さんから放たれたそんな言葉に驚いて、俺の口から出てきた言葉は、自分で思っていたものとはずいぶんと違ったそれになってしまう。間の抜けたそんな声に、親父さんは楽しそうに笑いながら、見上げる俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
けれど、それも束の間、豪快で、心地よいその手が、今度はふわりと優しい手つきになって、俺を見る親父さんの顔に浮かぶ笑みも、同じように変わっていって、「そんなに心配しなくても良いじゃねェか、」
「お前が悲しむような答えを、俺は持っていないつもりだぜ?」
・・・親父さんは、どこまで俺を喜ばせる気なんだろう。 いや、直接、その言葉を言ってもらった訳でもないのに、でもその間接的な言葉だけで、ドクン、と、面白いくらいに心臓を飛び上がらせて、顔の筋肉をこれでもかと言わんばかりに緩めてしまう俺も、俺だけれど、(ああ、もう、)
「 ・・・親父さん、」
「グラララ! ほら、訊かねェのか?」
再度、同じ言葉をそう紡いで、促すように俺の唇へと触れた親父さんの指も、とても温かかったです。
海の中の呼吸
愛しい親父さんと共有する時間は、広大な海を見る、それ以上に愛しい時間であって。
title by Lump / 海の中の呼吸(short)