「(・・・結局、日を跨いでしまった。)」
親父さんが生まれてくれた、俺にとっては何ものにも代え難い、大切な日だ。もちろん、俺もそんな大事な日を祝福しない、感謝しない訳がなかった。むしろ、祝福したい、感謝したい気持ちが大きすぎたのかも知れない。
「(・・・親父さんに、渡したかったのに、なあ。)」
親父さんに、おめでとうと、言葉では何度も紡いだ。それを親父さんも喜んでくれたし、そんな親父さんの笑顔を見るだけで俺も心が満たされていった。・・・けれど、1週間も前から、悩んでいたというのに、その言葉と共に渡すはずだった、いわゆる、誕生日プレゼントというものを渡せなかった事を、俺は親父さんの誕生日が過ぎてしまった今も、毛布を両手に抱きかかえながら、ずっと後悔していた。
「(これなら、直接親父さんに訊いた方が良かった、かな、)」
そう、かれこれ1週間だ。いや、もっと言うと、どんなものを渡せば親父さんは喜んでくれるだろうか、と具体的に考え始めたのが1週間前というだけで、実はもっと前から思いを巡らせていた。・・・それでも、やはり何を渡せば良いのか思いつかなかったのだ。ありきたりなものじゃなくて、特別なものを、やっぱり愛する人には渡したいと思ったから。
「(・・・それで結局選べなくて渡せなかったら、元も子もないけど、・・・)」
自分のアホさにため息を盛大に吐きつつ、けれどまだ諦めきれない思いを持ちつつ、気がつけば、俺の足は親父さんのいるその方向へと進み始めていたらしい。いつの間にか毛布は配り終えていて、歩んでいた足は駆け出していて、
「 おやじ、さんっ!!」
「グラララ!なんだ、自分の毛布は持ってこなかったのか?」
「風邪ひくぜ? ほら、こっちに来い。」 先程の俺の行動を見ていたのだろうか、うろうろとしていただろう自分の動作を親父さんに見られていたのかと思うと、何とも言えない恥ずかしさが俺に襲い掛かってきたけれど、それでも、自分の足を叩きながら俺をそこへと導いてくれる親父さんのその手が嬉しくないわけがなかったから、少し乱れていた呼吸を整えながら、ゆるゆると親父さんの元へと歩み寄り、その心地よさに身体を委ねた。
「で?俺の息子はどうしてそんなに急いでたんだ?」
「・・・あの、親父さんの誕生日なのに、プレゼントを渡せ、なくて、」
「何を渡せば、親父さんが喜んでくれるか、ずっと考えてはいたんですけれど、」 繋がっていない文章だという事は頭では分かっていたけれど、口から出てくるものは、そんなつたない言葉ばかりで。それも、当日に渡せなかった事への謝罪の言葉すらも紡ぐのを忘れてしまう始末。「あのっ、だから、その、!」 それでも、伝えないよりはと、ごめんなさいと、もう少し待ってもらえますかと、唇を震わせようとした、のだけれど、
「 ったく、愛しの息子は、どれだけ親を喜ばせたら気が済むんだ?」
「? あの、親父、さん?」
そっと俺の唇をふさいだ指が、見上げた親父さんの顔に浮かぶその笑みが、
「もう、十分もらってるさ。 その言葉だけで、俺ァ十分だ。」
「 まァ、どうしてもって言うなら、 グラララ、そうだな、酌をしてくれねェか?」 俺へと放たれるその言葉が、ずいぶんと、温かくて、心地よいそれらであって、もう、本当にどうにもこの人には敵わないのだと、改めて認識させられるのだから、(貴方がその言葉で嬉しいと思ってくれるのなら、俺は何度でも、その言葉を、)
「・・・お酒を注ぐなんて、いつもやっていますし、それに、親父さんが言ってくれれば、俺はいつでも、」
「あァ。 それが良いって俺は言ってんだ。」
「俺が今、一番欲しいモンって言ったら、それしか思い浮かばねェ。」 そう言って、俺の頭を撫でるその手をそのままに、親父さんはもう片方の手で俺の方へと先程まで飲んでいただろう酒瓶を寄せてくれて、それから杯へと手を伸ばした。
散々、あれだけ、プレゼントは何が良いだろう、ありきたりなものじゃやっぱり駄目だよな、そんな事ばっかり考えていたのに、親父さんに言われるその一言だけで、いつもしているはずのそれが、特別なものへと変わるように思えてしまうんだから、俺も、本当に、(ああ、もう、大好きだなあ、本当に、どうしようもないくらい、)