「・・・っ、( 夢、?)」


何かに迫られるような感覚に、俺は閉じていた瞼をかっ開く。いきなりだったそれに、思わず慌てて周りを確認するように視線を移したが、寝る前と何も変わらない事が分かっただけだった。見上げる先にはいつも見ている天井が、右へと向けば扉が、それから、左へと視線を移せば、


「(・・・親父、さん、)」


広い、広い親父さんの胸元が、俺の視界へと映し出される。親父さんが側にいるのだという事を改めて認識した俺は、頭を乗せてくれているその腕から、温かさがじわりと伝わって来るのも同時に感じ取った。そうだ、いつもなら、その心地よさに誘われるようにして目を閉じる事ができるのだけれど、


「( ・・・駄目だ、眠れない。)」


恐怖感を覚えるような夢だったからか、そんな今日に限って、俺の瞼はなかなか降りてくれなかった。どんな夢だったのかと言われても、上手く説明できないようなその夢に、けれどそんな曖昧な夢にもかかわらず、俺の目からは溢れたそれらが頬へと伝い、シーツへと落ちていく。

俺へと流れてくる体温にそのまま眠ろうとしたのだけれど、目から伝うそれらが止まらなくて、先程の恐怖感もまだ俺へと襲いかかってくるから、瞼を閉じるまでのことはできても、眠りに落ちる事まではできずにいた。


「(あまり、音を立てたくはないけれど、)」


こうなってしまえば、すぐには眠れないのだろうと判断した俺は、親父さんの腕から頭をそっと起こす。このまま起きていても親父さんに気づかれてしまうし、そんな親父さんの睡眠の妨げになるような事はしたくなかったから、夜風にでも当たるために部屋を出ようと、なるべく音を立てないで、ベッドから降りた、はずなのに、


「、 う、わっ、」


ベッドから出ようとしていたはずの俺の身体は、何故だかベッドへと逆戻りしていて、再度寝ていた時のように、視界のその先に天井を捉える格好になっていた。けれどその視界も束の間、再び動いた視界の先には、先程まで眺めていた親父さんの胸元が見えて、俺の頭には、親父さんの大きな手が、


「親父、さん?」
「 それで、バカ息子は親に一言も言わねェで、どこに行くつもりだったんだ?」
「っあ、 あの、起こしてっ、」


そんな親父さんの声が俺の耳へと聞こえてきたと同時に、ようやく俺は親父さんを起こしてしまった事に気づく。それから、その声に反応するようにがばっとまた身体を起こそうとしたのだけれど、それすらも親父さんの大きな手で防がれてしまって。起こしてしまった事へと申し訳なさから、謝ろうと口を開くのに、親父さんはそれを止めるかのように、俺をまるで落ち着かせてくれるように、そのまま俺の頭をゆるゆると撫で続けて、


「それが夢だろうと何だろうと、守ってやるのが親の役目ってもんだ。」
「 、親父、さ、」
「変な遠慮するんじゃねェ、」


「こういう時、バカ息子はただ親の言葉に素直に甘えてりゃァそれでいいんだ。」 俺が、どうして外に出ようとしていたのかも聞くことなく、けれど親父さんはすべて分かっているかのように、俺のすべてを包み込んだ。紡がれたその言葉から、触れているその手から、俺を襲いかかってきていた見えない恐怖感をすべて払拭してくれるように、安堵感と一緒にその温度を、愛しいそれを、俺へと分けてくれるから、(ああ、もう、)


「   親父さん、」
「グラララ! あァ、そうやって、すべてを預けりゃ良いんだ。」


「それを迷惑だなんて、誰も思わねェさ。」 緊張していた身体が解れて、親父さんの身体へと自らも寄せていけば、聞こえてきたのは親父さんの笑い声で。そんな言葉と一緒に、頬に残っていたらしい雫を拭ってくれる親父さんのその指が、そのまま俺の瞼へと上って、ゆるりとそれを閉じさせていく。先程、目を閉じた時に感じていたそれらはどこかへ行ってしまっていた。


「 ありがとう、ございます、  おやじ、さ、ん 」
「あァ、 ほら、 さっさと寝ちまえ。」


その恐怖感と入れ替わるように、襲いかかってきた睡魔に、身体全部から伝わってくる親父さんの愛おしさに、俺は身を委ねることにしようと思う。俺の愛しいその人が、そうすれば良いと、言ってくれるから、

穏やかに響く心音

親父さんへと言葉を紡ぎながら、心地よいその体温を感じながら、俺はゆるりと意識を沈み込ませた。