必要以上に、重力に引っ張られる感覚が体中を走るから、閉じていた瞼をゆるりと開けた。太陽を見る時とは違う、けれどどこかそれと似たような光を感じながら、目の前に広がる深い、深い藍色を見た。どこかで見た事のあるその色を眺めながら、ふと手に何かが触れる。
「( 魚、 ・・・海、か。)」
そこでようやく、自分の今いるところが海だという事に気付いた。指を少しだけ動かすと、魚はどこかへ行ってしまった。沈んでいっているはずなのに、どこか包まれているように感じるのは、何故だろう。いや、何故、だなんて問う必要も、考える必要もないじゃないか。その答えを、俺はもう知っているんだ、
その時、太陽の方へと引き上げられるような感覚に陥った。
「うっ、 ごほっ、 はっ、」
「 あァ、やっと気づいたか?」
次の瞬間、急に意識が浮上するように、身体から何かがこみ上げてくるのを感じた。意識と一緒に、苦しさと、どこからか声が聞こえてくるのが、身体に伝わってくる。その声に導かれるようにして、俺はいつの間にか閉じてしまっていた瞼を再度開いた。焦点が合うまで、かなりの時間を要してしまったけれど、俺を見てくれている、その瞳は、見間違うはずもない、愛しい、
「おやじ、さん?」
「 ・・・ったく、お前ェは俺のいねェところで危ない事をするのが好きらしいな。」
「寒くねェか?」 そんな親父さんの言葉に、俺はようやく自分がずぶ濡れになっている事に、それから海へと落ちてしまったのだという事に、気づく。最後に感じたあの引き上げられるような感覚は、誰かに助けてもらっていた時のだったのか。お礼を言わないといけないと思った俺は、動きにくくなってしまっていた身体をゆっくりと動かして、立ちあがろうとするのだけれど、すぐにそれは失敗に終わってしまった。
「 あ、 っと、」
「ほら、まだ無茶するんじゃねェ。今は動かず寝てろ。」
「す、みません、親父さん。」
ふらっと、足の力が抜けてしまって、甲板へと顔面からぶつかってしまう瞬間、親父さんが俺を受け止めてくれたらしい。その腕に捕まる事も儘ならなくて、親父さんに迷惑をかけてばかりだったから、そうやって言葉を紡げば、「あァ、全く、手のかかる息子だな。」 なんて言葉が放たれるから、俺は居た堪れない気持ちになってしまって、
「親父、さん、 ごめ、」
「 、」
「俺のいねェところで、心配させるような事するんじゃねェぞ。」 再度、親父さんへと謝ろうと口を開いたのだけれど、その開いた唇は、思うように動かないその身体は、そのまま親父さんの方へと寄せられてしまって、胸元で塞がれてしまって。それと同時に、聞こえてきたその言葉が、触れているところから伝わってくるその熱が、身体に浸透するように響いて俺のすべてを融かしていくから、
「グラララ、ちったァ、親の言う事を聞いても罰は当たらねェと思うねェか?」
「 親父さん、」
「ん?どうした、?」
締め付けられるくらいに強く抱きしめられているはずなのに、そんな感覚は全くなくて優しく抱かれている感覚だけが俺の意識を覆う。見つめる先にある深くて濃いその色の瞳に、包まれるその感覚は、大好きで、愛おしくて仕方がない、
「大好きです、親父さん。」
「グラララ! ったく、そういう所だけ、成長しやがって、」
「・・・しっかり抱かれて、温まっとけ、愛しいバカ息子め。」 そう言って、再度強くされるその腕の中で、俺はその言葉を受け入れるように、しっかり親父さんへと擦り寄るように、腕をめいいっぱい伸ばしたのだ。
蕩けた、色
世界に広がるその色があるからではなくて、貴方のその色があるから、俺は、
title by capriccio / 蕩けた、色(目の色五題)