「(・・・少々、寒過ぎやしないだろうか。)」


3月の下旬、麗らかな陽気に包まれて桜の花もそろそろ顔を見せ始める頃・・・なんて今年から入学する新入生へと送る言葉の下書きをしていた、そんな昨日とは裏腹に、俺は今、昨日書いたそんな言葉たちを変えなければならないのだろうかと本気で悩みながら学校へと続いている道を一歩一歩と前へ足を進めていた。


「(もう、4月にもなるっていうのに、)」


昨日の暖かい気候もあって、防寒具なしで登校した俺も悪いのだろう。でも、こんなに寒いとは思わないじゃないか、もう4月になるし、桜も咲く頃なんだぞ? なんて自分に言い訳をしながらも、マフラーもコートも身に着けなかった自分に反省もしつつ、首をすくめながら学校へと向かう。寒さにめっぽう弱い訳でもなかったが、それでもこの寒さはさすがに防寒具なしでは応えてしまう。肌に容赦なく当たる風を受けてしまいながら、少しでもそれを防ごうとポケットへと両手を突っ込みながら、歩いていれば、


「・・・、お前、この寒い中、なんて格好してんだよい。」
「・・・あ、ああ、マルコ。おはよう。」
「ああ。」


そう言って俺の後ろから声をかけてきたのは、俺の服装とは違って、コートにマフラーをつけるというまさに防寒対策ばっちりな格好でこちらへと視線を向けているマルコの姿があって。いつものように、俺の挨拶へと軽く返事をしながらこちらへと歩いてくるマルコを待っていれば、こちらへと近づいてきたマルコの口からは白くなってしまった息を深々と吐きながら、俺の首元やら顔やらへと視線を巡らせた。


「見てるこっちが寒ィよい。」
「・・・実際は俺の方が寒いが。」
「んなもん自業自得だよい。大方、天気予報以外のニュースだけ見て、そのまま外に出たら寒かったが大丈夫だろうとか思ってそのまま登校してきたんだろい。」
「う、(・・・言い返せない。)」


顔をしかめながらそんな事言うマルコへと恨めしげに視線をやりながら言葉を返せば、考える事もなしに、疑問符すらもつけることなく、つらつらと言葉を投げ返してきてくれた。それに反論したいところだったけれど、もう直しようがないくらいに、俺の考えていた事そのままだったから、何も言い返すことができず、子供じみたうなり声しかあげることができなかった。そんな俺を見て、またマルコはため息を吐く。


「ったく、お前ェは自分の事になると、」
「??どうした、マル、 わっ、」


呆れながら言葉を放つマルコに耳を傾けていれば、何故だか途中で言葉が途切れた気がして、言い当てられてその気恥ずかしさから下へと向けていた顔をマルコの方へと移そうとすれば、それと同時にぐいっと首を引っ張られる感覚と、 その首が少し暖かくなった感覚が俺の中へと浸透してきて、


「これでも巻いてろ。少しはマシになるだろうよい。」
「え、いや、マルコ、お前が寒くなる・・・」
「黙って言うこと聞いてろよい。自分に無頓着過ぎる仕事馬鹿生徒会長め。」



その暖かいものが、マルコが俺の首へと自分の巻いていたマフラーをくるくると巻いてくれていたからだという事に、マルコの言葉を聞いてようやく理解した俺。けれどそんな事をしたらマルコの首元が寒くなると思い、遠慮しようと口を開いたというのに、目の前にいる副生徒会長様はさりげなく、というかおおっぴろげに俺へと暴言を吐きながら、有無を言わさずそれを巻いてきた(・・・少々、首を絞められた気がするんだが・・・気のせい、か?)(だと思いたい。)


「う、その、・・・しかし、だな、」
「  、」


けれど、やはり彼の防寒具を奪ってしまうのは何だか申し訳なくて、そのしっかりと綺麗に巻かれたそのマフラーへと視線をやって、もう一度マルコへと向いて言葉を返そうとするのだけれど、たった一言、ただ俺の名前を彼が口にしただけだというのに、俺はもう何も言えなくなってしまう訳で。


「・・・分かったよ、借りる事にする。」
「分かれば良いよい。」


結局、俺は早々とマルコに抗議の言葉を放つことを放棄して、そのマフラーを借りる事にしてしまう。降参、と言うかのように両手を上げてひらひらと手を降りながら俺がそう言葉を紡げば、マルコはその顔に笑みを浮かべて、ぽんぽんと俺の頭を撫でてきながらそう口を震わせてくる。その笑みは、俺がそう答えるとまるで知っていたかのようなそれのように見えた気がしたのはきっと、(俺の名を呼ぶその声が、優しくて、愛しいその声に聞こえたのも、)(・・・まあ、乗せられる俺も、俺だけど、)


「   マルコ、」
「ん?何だよい?」
「ありがとう。」
「  どういたしまして。」


「・・・まァ、そんな事だろうと思ったから、こんな格好してきたんだが、」 俺から出てきた礼の言葉を聞いて、未だに寒さで赤くなっているだろう耳元で、そんな事を囁いてくるマルコ。・・・どうやら、彼には何もかもお見通しであるらしい。今更ながらにそんな気恥ずかしいような、嬉しいような事を改めて思いつつ、「ほら、行くよい。」なんて言うマルコの背中を、俺は再度首をすくめて追いかけた、そんなある春の日の、朝の話。

息の白さが際立って

あ、会長にマルコさん、おはようございます。  ああ、おはよう。   おっはよーございます!・・・って、あれ?会長、そんなマフラー持ってましたっけ?   ああ、これはマルコから借りたやつだよ。防寒具なしに来てしまってね。  ・・・会長とマルコさんって、やっぱり、(もう、結婚してるんじゃ、)  ??どうした、そんな顔をして?   え、あ、いや!ええと、お、お幸せになってくださいね、会長!!  ??あ、ああ。それは、ありがとう?  気にしないでください、会長。ちょっと寒さで頭がおかしくなってるだけですから。  そう、なのか?



title by 赤小灰蝶 / 息の白さが際立って