生徒会のみんなへ申し訳ないけれど休ませてくれとのメールを送信してから、どれくらい経っただろうか。身体にかかる重力が2倍になったんじゃないだろうかと思わせるほどに身体が怠く、動かす気力も出てこないままに薬やら何やらと処置を施せないままでベッドに身体を沈ませる事しかできないでいた。妙に身体が火照っているから、たぶん熱も出ているんだろう、なんてどこか他人事のように思いながら、ぼやける視界で天井を見やる。
「 まあ、寝ていたら治るだろう。」
「・・・そんなんで治ったら苦労しねェよい。」
「 ・・・え、?」
薬が飲めない状況にある言い訳をそうぽつりと零して、再度眠りに落ちようとしたそんな時。 ついに風邪の所為で幻覚を起こすようにまでなってしまったのだろうか。聞こえるはずのないその声に、見えるはずのないその姿に、思わず俺は、間の抜けた、そんな情けない声しか出す事ができなくて、
「え、 あ、 ま、マル、コ?」
「あァ、そうだよい。言っとくが、幻覚でも何でもねェからな。」
「メール見て来て見りゃ、案の定だよい、お前ェって奴は。」 ため息混じりにそう言葉を吐きながら、急に俺が来ていた服のボタンを2つ程外すと、どこから取り出して来たのか、脇の間へと体温計を差し込むと「ちゃんと挟んどけよい。」 なんて言葉が降ってきた。未だにマルコがここにいる事を受け止められていない俺の脳内は、けれどマルコのその言葉には従ってしっかりと脇を閉めつつ、マルコへと口を開く。
「マルコ、」
「ん?」
「どうやって、 ここに?」
「 あァ、この前俺の家の鍵を忘れていっただろい。今日それを渡そうと思って学校へ行ったんだが、その本人が風邪ひいたとか抜かしやがったから、そのままそれ使って入ってきたんだよい。」
「(・・・不法侵入と大差ない気がするんだが。)」
マルコから放たれたそんな返事に、思わずそう言葉を漏らしそうになったけれど、そんな事を言ってしまえば、己の体調管理を責めに責められる事が目に見えて分かったから、何とかそれを心に抑え込む。ごそごそと持っていた袋の中から薬やら何やらと出しているマルコを横目に見ていると、部屋の中に電子音が響き渡った。
「・・・まァ、予想範囲内だよい。」
「・・・う、いや、 その、 っ!」
その音に気付いたマルコが体温計を引っこ抜き、弾き出されたその数字を見やって深々と息を吐きながら言われたそれに、居たたまれなさを感じて、つい返事がしどろもどろになってしまう。そんな俺に、マルコはふわりと一瞬笑みを浮かべたかと思えば、額にあった髪の毛を退かすと、何を一言俺に放つ訳でもなく突然に俺の額へと、今の俺にとってはえらく冷たいと感じてしまうそれを勢いよく貼ってきた。
「・・・マルコ、(吃驚すると分かっていて、君は、)」
「 、」
「 う、な、何だ?」
「 ・・・お前ェはいつも1人でそうやって、」
「・・・それ、は、 自覚なら一応、」
「自覚があるだけで、それを行動に起こしてなけりゃ意味ねェよい。」
「・・・う、 (何で俺は説教を、)(いや、説教される自覚もあるにはあるんだけれど、)」
俺が咎めるはずだったのに、いつの間にかそれが逆転してしまって。言い返す言葉も出てこないそんな言葉をマルコから一方的に投げつけられながら、病人に正論をそんなばしばしと、なんて思わなくもなかったけれど、 でも、それが俺の事を思ってのことだと、熱で浮かされている脳でも、それだけは、分かっているから、(ああもう、顔が緩んで、)
「マルコ、 」
「今度は何だよい。」
「 ありがとう、」
「 あァ、分かってるよい。」
「ほら、病人は大人しくしとけよい。今食えるモン作ってやるから。」 ゆるりと笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてくれたマルコは、そう言葉を紡ぐと、まるで自分の家のように慣れた手つきでキッチンへと降り立って調理をし始めてくれたのだ。