「会長っ!ああ、良かった!」
急に意識が浮上してきて、ゆるりと閉じていた瞼を開ける。いや、そもそも何でこうして瞼を閉じていたのか、意識がなくなっていたのかすらも分からなかった。焦点が合う間に、聞こえてきたその安堵するかのような声に、この部屋は生徒会室なんだろうと理解して、そう言えば先程まで生徒会室で仕事をしていた事を思い出した。その瞬間、仕事を終えていなかった事も同時に思い出して、それを終わらせようと寝ていたらしい俺の身体を起こそうとすれば、
「 う、わっ、」
「・・・何勝手に仕事に戻ろうとしてんだよい。」
俺の身体は何故だか再び横になった状態に戻されてしまった。それから、俺から放たれた情けない声と同時くらいに上から聞こえてきたのは、ずいぶんと聞き慣れているその声であった。
「・・・マルコ?」
「他に誰の声に聞こえるってんだよい、この仕事馬鹿。」
「(仕事馬鹿・・・)」
ずいぶんと棘があるような言い方で、俺にそう放ってきたのは、間違いなくマルコの声であって、焦点がようやく合って、見上げると視界に映ってきたのもマルコの顔であることにようやく気付いた。そして、見上げた先に彼の顔がある事と、後頭部に感じるソファとは違う感触がある事を考えると、俺はマルコの足を枕にしていると言う事になる訳で、
「マルコ、俺は一体・・・」
「いくら夏休みで作る時間も惜しいからって、食べねェやつがあるか。」
「・・・何で、それを、」
「あと、急いでる書類があるわけでもねェってのに、別に寝る間も惜しんでする必要はねェだろい。」
「・・・いや、その、」
棘のある、というよりも、何か鋭利な物で直接刺されている感覚を覚えるようなその言葉に、俺はようやく自分が倒れてしまったんだという事を理解した。しかもマルコの言っている通り、それらが多分、倒れてしまった原因だ。「どうせ栄養補助食品でも食ってたんだろい。」なんて吐いてくるマルコのそれに、俺は「・・・ごもっともで、」 と言い返す事しかできなかった。
「心配かけさせないでくださいよ、会長。」
「・・・すまない、迷惑をかけてしまって、いっ、」
真向かいのソファで、深く息を吐きながらそう言ってくる後輩に、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになり、そちらの方を向きながらそう言葉を漏らせば、上の方から濡れたタオルでべちんと額を叩かれるハメになってしまった。そうされる理由が分からなくて、額に乗せられたタオルをそのままに、思わず眉間に皺を寄せれば、
「・・・迷惑じゃなくて、心配をかけたことに謝れよい。」
「人がいる前で、いきなり倒れやがって。」 これまた盛大にため息を吐かれながら、言われたそんな言葉。思わず、「ああ、すまない。」なんて流されるままに返してしまったけれど、その言葉に含まれているだろう意味を若干ふらふらしている頭でようやく理解すれば、顔に浮かんでくるのはどうも抑えきれない笑みであって、
「 マルコ、」
「何だよい、」
「心配をかけてすまなかった。 みんなも、ありがとう。」
額に乗っていた彼の手に自分のそれを重ねて、そう言葉を紡ぎ出せば、「あまり無理をしないでくださいね、会長。」 なんて苦笑と共にみんなから声をかけられてしまう。けれど、心地よく感じてしまうその言葉に、笑みを浮かべて頷きながら、「なるべく努力はしてみるよ。」と答えることのできる精一杯の言葉を彼らに返す。
「 ほら、もう少し休め。」
「後は俺達がしといてやるからよい。」 意識が再度、落ちていく中で、そう放ってくる彼の声が意識と共に、俺の奥底へと染み込んでいったのだ。