「あ、おはようございます。」
「おー、か。おはよう。」


敵船が攻め込む訳でもなく、至って穏やかな海を航海中の白ひげ海賊団。だから俺ものんびりと起きて、朝食を取ろうと食堂へと行って空いている席へと座った訳なんだが・・・そこまでは、いつも通りだったんだ。俺達よりも遅く来たある人が俺の座っていた席の真ん前に、の座っていたその席の隣に、座るまでは、


「・・・」
「・・・」
「・・・(何やってんだ、この人達は、)」


いや、正確に言えば、この人は、だけど。 そんな事を思いながら頬杖を突きつつ、もっそもそとパンを口に運ぶ。それからコーヒーの入ったカップを手に取りながら、俺の真ん前に座った、一応、俺の隊の長をしているマルコ隊長とその隣に座っているエース隊長の隊にいるを見やった。前者の顔にはにやにや、なんて言葉が似合いそうな笑みが浮かんでいて、後者の顔には別に気温はそれほど高くないというのに、暑いと言わんばかりに顔に熱を籠もらせていた。


「・・・う、あ、 あの、 マルコ、さん?」
「ん?何だよい、?」
「 その・・・朝ごはん、食べなくて良いんですか?」
「食べてるよい?ほら、パンも手に取ってる。」
「い、いや、その、 えと、(そういう意味じゃ、なくて、)」


がどういう意図を持って隊長にそう言葉を紡いだか分かってるくせに、どうやら隊長はその意図に気付いていないふりをするらしい。えらく楽しそうな笑みを浮かべながらじーっとの方を頬杖を突いて見る隊長は、かれこれ隊長がこの席に座ってからずっとその調子だった。

最初こそ、も隊長へと笑みを浮かべて挨拶をして、食べる間も視線をふと合わせれば隊長に笑みを浮かべてとしていたのだが、今では何だか居たたまれない様子で隊長の視線をその目で受け止めず横顔で受け止めてしまっていた。ちびちびと進めていたはずの食事も、完全に手が止まってるし。


「俺の顔に、何か、付いてますか?」
「いや?何も付いてねェよい。」
「(・・・朝っぱらからで遊ばなくても良いでしょうに。)」


口に出してしまえば、の助けの矛先が俺へと向いてしまい、隊長に修行という名の八つ当たりに遭ってしまうので、心の中だけでそんな事を思う。のそんな言葉に、何も頬には付いていない事を知らせるためなのか何なのか、わざとらしく頬へと指を滑らせて言葉を返す隊長。そんな隊長の行動に思わずびくっと身体を震わせてさらに顔を赤らめたに、隊長はまた面白そうにくつくつと笑みを零す始末で。


「 ま、マルコさんっ、っ!」
「   ん?どうした、?」
「・・・(ほんと、よそでやってくれねえかな)」


意を決したのか、ずっと隊長から逸らして目の前にあるサラダを見つめていたその瞳がきっ、と隊長の方へと、その名を呼びながら向いた瞬間、隊長はまるでそれを待っていたかのような素早さを持って、自分の名を紡いだその唇を塞ぎやがった。

できれば聞きたくなかったその音を聞いてしまった後、白々しい様子で隊長はそんな言葉をに放ったのも耳にする。何やってんだと声に出さなかっただけ褒めて欲しい、なんて思っていれば、隊長の行動を理解できていなかったのぽかん、としていたその顔に、再度、ぶわっと赤みが戻ってくるのが、俺の目にも、隊長の目にも映ってきた。


「なっ、!!」
「あァ、口にパンくずが付いてたんでな。」
「・・・(こいつ、パンなんて1口も食ってねェし。)」


慌てて口を片手でばっと押さえたに、変わらず笑みを浮かべながら隊長はしれっとそんな事を言った。そんな隊長の行動に限界が来たんだろう、真っ赤な顔のままはガタッと立ち上がると、散々遊ばれたっていうのに律儀にも隊長と視線を合わせながら「は、歯ブラシしてきます!」なんて大きな声を出しながら、食堂を駆けて出て行ってしまった。・・・という事は、今ここに残っているのは俺と、頬杖尽きながらを見送った隊長だけ、という事になるわけだが・・・


「・・・歯ブラシするってなんだ。(それを言うなら歯磨きするだろ。)」
「さて、俺も歯を磨きに行ってくる事にするよい。」
「・・・あいつで遊ぶのも程々にしてやったらどうですか。」


ため息混じりに俺がそんな事を言っていると、の駆けて行った後を見ていた隊長はそう呟いて、ゆるりと立ち上がった。ただ歯を磨きに行くだけだというのに、その顔には未だに笑みが浮かんでいるのだから本当に仕方のない人である。助ける、という訳でもなかったが、けれどその光景を直に見ていたものだから、程々に、なんて、ついそんな言葉を隊長へと紡ぐのだけれど、そんな言葉なんかでは、この人には全く効果はないようで、「そいつは、無理だよい。」なんてあっさりと俺の言葉は無駄という結果に終わってしまった。


「・・・(、好きになる相手を間違ったんじゃねェか?)」
「ほら、昔から言うだろ?」
「・・・何をですか。」


そんな事を今頃真っ赤な顔をして歯磨きをしているであろうへと紡ぐようにして思ってみるが、もちろん返事なんてものが来るはずもなく。まあ、そんな事をに直接言ったところで返ってくる答えはおそらくいつだって同じなんだろうけど。だから、周りのみんなも本気で隊長を止めねェし、も隊長を本気で怒らねェ訳だが。


「 好きな子ほど、苛めたくなるってな?」


そんな事を言って洗面所へと向かう隊長の顔には、ひどく楽しそうで、愛しそうな笑みが浮かんでいた。

朝の日常はその光景から

いつの間にか、その光景が日常になっている事に俺は気付かないふりをしておきたい。