「 う、」
「あァ、起きたか、。」
「起きたのは良いが、まだ身体は動かすなよい。」 幾度と聞いたことのあるその声が、やけに俺の脳内へと響く。その人の名前を呼ぼうと口を開けると、けれど言葉を声へと乗せるより先に、自分ですら痛々しいと思うような咳が出てしまった。
「風邪をひいたんだよい。無理に声を出すな。」
「・・・・か、ぜ?」
聞こえてきた、マルコさんのその言葉に、ようやく自分の感じていた、その不思議な症状に合点がいった。意識が妙に浮つくのも、身体に痛みや重さがあるのも、その所為だろう。声がいつもよりもガラガラで、ひどく低くなっているのも。
ぼーっとしている頭でそんな事を考えていると、額に乗っていたらしいタオルをマルコさんに取られ、ひんやりとしたそれが代わりに置かれた。その冷たさに心地よさを感じつつ、マルコさんへとお礼を言おうとしたところで、俺はようやく、はっと気づく。
「っ、 ま、るこ、さんっ、そこ、 いたら、風邪がっ、 」
「身体を動かすなと言ったはずだが?」
「あ、す、みません、 って、 まる、こ、さんっ、!」
そんな柔な身体をしていない事を知っていても、それでも万が一の事があってはいけないから、マルコさんに風邪が移ってしまわないように、言葉を発しようと身体を起こした、はずなのに、それは途中で身体をベッドに引き戻されて、マルコさんに声をかけられて、不発に終わってしまった。自分の足に頬杖をつきながら、ものの見事に俺の言葉を流そうとするマルコさんに、けれど俺は寸前の所でなんとか踏みとどまった。
「・・・かぜ、 うつったら、 いやです。 」
「そんな柔な身体じゃねェよい。 お前と違って、な?」
「・・・うう、(・・・言うと、思いましたよ。)」
その言葉に俺が何も言い返せない事を知っておきながら、けれどマルコさんはわざとらしくその言葉を紡いでくる。言葉には出さなかったけれど、俺の気持ちを読み取ったようで、マルコさんはその顔に少しだけ楽しそうに笑みを浮かべながら、汗ばんでいる俺の頬をするりと撫でた。
ここで引いてしまえば、マルコさんに風邪が移ってしまう可能性が数%だけれど、でも少なからず可能性が残ってしまう。それを少しでも減らさなければならないはずの俺は、もう一度、マルコさんへと、その言葉を紡ごうと、口を開くのだけれど、それを、今度は咳ではなく、
「ここにいてやるよい。」
「痛ェ喉を酷使してまでぐだぐだと口を開かずに、病人は大人しく寝てろよい。」 病人だと言ってくれているはずなのに、それにしては酷いような、・・・優しいような。 そんな言葉を放ったマルコさんが、頬に当てていたその手を、再度、また緩やかに撫でてくれるから、(・・・言葉はあれだったけど、それを紡ぐその声が、ずいぶんと、優しくて、愛おしいその声だったから、)