ふらふらと覚束ない足で食堂へと入っていって、視界が未だにぼやけていながらも俺のそれへと入ってきた彼の姿に、思わず、元々緩んでいたその顔をさらに緩ませて、彼の元へとその足で駆け寄る。


「  おはようございます、マルコさん。」
「  ん、ああ、か。」


俺の声に、見ていた新聞から目を離してそう声をかけてくれたマルコさんは、それから、いつものように挨拶をして、自分の隣のイスを軽く叩いて、そこへと座るように促してくれた。


「 朝に弱すぎだよい、お前は。」
「・・・自覚はあります。」


まだ読み終わってないのだろうその新聞に目を通しながらも俺の目を覚まさせようと、話しかけてくれるマルコさん。けれど、せっかくマルコさんが話しかけてくれているというのに、俺の脳内は全く覚醒する気配がなくて、というよりむしろ、彼のその声が、ひどく心地よく響いてきてしまって。


「 う、ん、」


気が付けば、あろう事に俺はマルコさんの肩へと自分の頭を預けるという、頭が正常に働いているのなら絶対にしないであろう事をやらかしてしまっていて。けれど脳内が覚醒しきっていない俺が、そんなとんでもない事をしてしまっている事に気付く訳もなく、


「 ふふ、マルコ、さん、」


触れた所から伝わってくるマルコさんの温度に、再度俺は顔に笑みを浮かべて、つい欲張って、猫のように顔を擦り寄せてしまう。新聞を読んでいる事だけは何とか理解していたから、それを邪魔しないようには、していたつもりだったのだけれど、  「  、」


「?? どうしたんですか、マルコさん?」


新聞を読んでいたはずのマルコさんの手が俺の後頭部へと伸びてきて。さっぱり意図が分からないまま、けれど心地の良いそれだったから、ゆるりと頭を撫でられたままでいた、そんな時、急に彼の手に、力が入ったものだから、


「う、わっ、」


元々、マルコさんの肩に頭を預けるなんて少々バランスの悪い格好をしていた所為もあってだろう、そんなにマルコさんの手の力は強くなかったはずなのに、俺の身体はぐらりと彼の方へと倒れてしまって、


「 え、あ、 ま、マルコ、さん?」


ボスンと俺の身体が、顔が沈んだ先は彼の足の上ということになる訳だけれど、何とか覚めていたなけなし意識を引っ張りだして、身体を起こそうとするのだけれど、頭をゆるゆると撫でられてしまって、再度その体温を感じてしまえば、


「俺がコーヒーを飲み終わる頃には起こしてやるよい。」


「それまで大人しくそこで寝とけ。」 彼の視線はやっぱり新聞に向いていて、けれどその言葉が俺へと響いてきたそんな時に、ゆるりと一瞬だけ笑みを浮かべたその顔を俺へと見せてくれるものだから、(ああ、もう、)


「   マルコさん、」
「ん?何だよい?
「後で、その新聞、俺にも見せてくれませんか?」


「あァ、コーヒーも用意しといてやるよい。」 俺の言葉にそう返事をしてくれた彼が顔を緩ませているのを視界の端で映しつつ、彼のから伝わってくる、その愛しくて心地よいその体温ををめいいっぱい感じながら、俺はゆるゆると瞼を閉じてしまうのだった。

コーヒーから立ち上る湯気に霞んで

どうやら、意識はまだ覚醒していなかったらしい。



title by 赤小灰蝶 / コーヒーから立ち上る湯気に霞んで