昔と比べたら、良くなったのだとは思う。だが、人の性格の根本っつうモンは変える事は不可能であって。それを考えるとなんて難儀なものだと今更ながらに思うわけだが、


「  、」


俺の腕の中で、まるで俺が何処かへ離れていってしまうのを恐れているかのように、俺の服を強握りしめている。普段のこいつからは想像出来ない程のその取り乱し方、だが俺はそれを何度か見かけた事があるし、こうしてを落ち着かせるのもやった事があったから、俺はそれに驚く事なく、腕の中で呼吸を浅くしているの背中をゆっくりとさすりながら、名前を呼んでやる。


「  マルコ、さんっ、」


人に甘える、頼るといった事を、はずいぶんと苦手としていた。そんな仲間を俺は何度か見た事があるが、そいつらは頼る事自体を嫌う傾向にあった。仲間に裏切られたりしてしまった奴や、自尊心の強い奴だったりした訳だが、最終的にはオヤジや俺達に心を許して頼る事もそれなりにするようになった。
だが、の場合は少し勝手が違った。の場合、頼るとか甘えるとか、それらをする事自体が悪い訳じゃねェ事は知っていた。だが、その方法が良く分からないというモンだったのだ。


「  ほら、落ち着けよい。俺はここにいるだろい?」
「  っ、マルコ、さん、」


それの所為か、頼ったり甘えたりと言ったそれらの行動を、こいつは人に言われなかったら、その考えすらも脳内に浮かんでこないらしい。だから、と言ったら、直結過ぎるかも知れねェが、こいつは自分の中に色々と無意識のうちに溜め込んでしまう癖があって。


「   、俺っ、 俺はっ、」
「あァ、お前ェはここにいるよい、俺の腕の中に。」


今なっているこの状態も、その溜め込みすぎでなっちまう症状の1つだ。不安やら心配やら、俺達に話すことなく自分の中で処理しようとして、脳内から溢れ出て混乱してしまった結果がこれのようで。
以前はこいつがこんなに取り乱す所見るなんて事、一度も無かった。だから、これはたぶん、が俺達に頼るという事を覚えた1つの証拠なんだろう。と、俺は勝手に思う事にしているんだが、そう思うと、こいつがこうして発作を起こしているというのに、俺の脳内では愛しいなんて感情が溢れ出てきちまって。


「  今、お前の耳に響いてるのは誰の声だ?」
「    ま、るこ、さんの、」
「あァ、俺の声だよい。」


本当なら、もっと普段から頼るなり何なりとして欲しいと思っているのだ。俺に限って言えば、恋人なんだからっつう理由も入るんだが、オヤジやエースを筆頭に、他の奴等だって、もっと頼って欲しいと思っているんだが、何せ人の性格っつうモンは、難儀な事にそんなに簡単に変えられるモンじゃねェ。

だが、どんな形であれ、こいつがやっとこうして人を、仲間を頼るっつう事を覚え始めたんだから、今はその声に、愛しくてどうしようもねェ、のその声に、


「今握ってる俺の服の感覚も、お前の耳に響いてる俺の声も、全部本物だよい。」


「だから、 安心して身体を預けても構わねェよい。」 ようやく、少しだけ落ち着いてきたその呼吸音を聞きながら、ゆるゆると背中を撫でていた手をそのまま腰へと持っていき、もう片方の手を後頭部へと添えて、隙間を作らないようにこいつを、  を抱き込んで、


「   お前を置いて遠くへ行ったりなんかしねェよい。」
「  っ!!」
「オヤジも、エースも、他の奴らも。  もちろん、俺もな?」


俺を求めてくれる愛おしい恋人の不安をすべて払拭して、身も心も俺で埋めつくして安心させてやらねェと、な?

曖昧な境界に触れる

愛しい奴に求められるって事は嬉しい事なんだよい。



title by 鴉の鉤爪 / 曖昧な境界に触れる(散文じみた100のお題)