「・・・お前は強ェんだか、弱ェんだか。」
目の前にある、赤い液体が流れている腕へと包帯を巻いていく。ため息と共にそう呆れるように言葉を吐けば、目の前でそれを大人しく受けていたはひどく申し訳なさそうに「う、・・・すみません、」 なんて言葉を紡ぎ出した。
怪我したならナースにでも頼みゃいいってのに、こんな大したことのない怪我で手を煩わせるのは申し訳ないだとか何とかで、自分の部屋に救急箱なんぞを持っている。今日も怪我の事を黙って船へと帰ってきたこいつは仲間との挨拶も少なめにそそくさと部屋へと戻っていったから、それを遠目で見ていた俺はそのままばれねェようにの後をついていって、部屋へとノックもなしにずかずかと入っていった訳だが、(ノックしなかったのはこいつがノックしたら入れさせてくれねェことが予想できたからだ。)
「で、今回の怪我はどうしたんだよい。また転けたのかい?」
「あ、いや、今日は・・・あの、」
俺が理由を訊ねれば、いつもなら素直に答えてくれるの口から出て来たのは言い淀むようなそれで。その返答から転けたのではないことくらいは推測できたが、それ以上はの口から聞かないと分からない。「えっと、ですね、」なんて俺が理由を聞かないでくれるのを待っているのか、俺から目をそらして自分の指へと視線を移した、に包帯を巻いていた俺は、もちろんこいつの望み通りの事をするはずもなく、
「 、」
「 う、」
理由を言うよう促すように名前をの耳元で言ってやれば、優秀な事に逃れる事ができないと悟ったらしいこいつは「・・・聞くだけで、その後に何かするなんて事、しないでくださいよ。」 なんて訳の分からない言葉を俺へと放ってきたから、「あァ、分かったよい。」 と何ら躊躇うことなく返事をしたんだが、そんな返事がすぐに破られることなど俺にはもちろん推測できるはずもなく。は俺にこの怪我をした経緯をぽつぽつと話し始めた。
「美味しそうなデザートがあったので、レストランでそれを食べていたんです。そうしたら、訳の分からない人攫いだかが入ってきて、俺の事を見て・・・その、」
「何て言ったんだい?」
「えっと、美味そうだとか何とかと、」
「・・・それで?そいつらはどうしたんだい?」
話の途中だったが、もう既に俺の中の何かが沸点に届きそうな勢いで上昇していた。が、それだけならだって怪我をする事はなかっただろう、けれどこいつの腕にはしっかりと傷が付けられていた。未だに言いづらそうにしているに、俺は吹き上げるものを必死に抑えて続きを促した。
「さすがにレストラン内では襲撃してこないと思って、迷惑にならないように食べ終わった後に街の外れに出て片を付けようと思ったのですけれど・・・」
「ん?」
「・・・一緒にデザートを食べていた新入りの子がそれを聞いて血が上ったのか、その場でそいつらを攻撃してしまって、ですね、」
「・・・ああ、」
「一般市民を巻き込みたくなかったので、その新入りと市民とを一緒に庇いながら倒していたら、」
「その時に、ちょっと奴等に押し倒されてナイフをくらってしまって、ですね・・・あ、でもすぐに蹴り上げたんですけれど、」 どうやら自分で思っていたよりもに関しての俺の沸点は低かったらしい。ぼそぼそと説明をしてくれるだったが、俺の耳には最後まで入る事が無かった。丁寧に、優しくの腕に包帯を巻き終えた俺は、ふつふつと沸き上がるそれを抑えつける事が出来ないままに、へと言葉を吐いた。
「 、」
「 はい、」
「そのレストランは、どこにある?」
そんな言葉を言った途端、「・・・何もしないって言ったはずでしょう、」なんてそうなる事が分かっていたような口ぶりでため息混じりにそう唇を震わせた。けれど今から俺が止まるなんて思ってもいないのだろう、「・・・あまり、無茶しないでくださいよ。」なんて人に言える立場じゃねェこいつが心配そうにそう呟いたから、俺は、
「安心しろい、そいつらにに手出しした事を後悔させてやるだけだ。」
「そんなに時間はかけねェよい。」 口の端を上げながらそう答えた俺は、「・・・その言葉のどこに安心すれば良いんですか。」なんて返答をしてくるに「 全部に決まってるだろい?」 なんて耳元で再度囁いてやって、の頭をがしがしと撫でて。それから「すぐに戻ってくるよい。」 なんて顔を少し赤らめてこちらを見ているにそう言葉をかけて、部屋を後にした。
「 さて、」
とりあえず、を押し倒しやがった野郎ってのを跡形無く潰すとするか。それからその後に、と一緒に出かけてこいつの好物のデザートまで2人きりで食いやがったとか言う新入りに、隊長として、一言忠告しておこうじゃねェか。(もちろん、後者はに黙ってだが、)
カウントダウン開始
さァ、俺のに手ェ出したふざけた野郎はどこのどいつだ?
title by 赤小灰蝶 / カウントダウン開始