食事中、何となしにそんな事を言われて俺は動かしていた手を止めて開いた口はそのままで、という何とも情けない格好でその言葉を放った船員の1人を見た。そうすれば、俺を置いたままその話は徐々に人伝に拡大していって、気付けば周りにいたみんなが「何でだ?」と口を揃えて俺の方へと視線を向けてきた(何なんだ?)
「いや、別にこれといった理由がある訳じゃ、」
「エース隊長が止めたとかじゃねえの?」
「・・・違いますよ。(何でそこでエース隊長の名前が、)」
口に放り込んだパンを咀嚼しながらそう質問に答える。別に誰に何を言われたでもなく、刺青が嫌いとかそんなんでもなく、故意に刺青を入れる事を避けていたわけではないのだ。言うなればただタイミングを見失っていただけというか何というか。
「咎められる理由がないなら、も彫ったらどうだ?」
そんな事を言われながら、ふとその人の肩のその刺青に目をやる。それから周りの彼らへと眼を向けてもやはり身体のどこかしらに見える、偉大な白ひげ海賊団のそのマーク。よくよく考えてみなくても、俺の身体にはその偉大なマークは何処にも彫られていないわけで。
「・・・彫りたいな、」 独り言のように紡ぎ出したつもりだったその言葉は周りのみんなにはどうやらだだ漏れだったようで、「よし、思い立ったが吉日だぞ!」なんて言われて、あれよあれよという間に彫り師のいる部屋へと連れて行かれてしまった。けれどその部屋にいた彫り師さんは俺が来た事に驚くことなく「さて、どこに彫るんだ?」なんてやっと来たかと言わんばかりのその口調で俺に笑みを向けてくれたから、俺はそれに返すように笑みを浮かべて希望の場所を言うために喉を震わせた。
「 、お前ェ一体どこにいたんだい?」
「あ、マルコさん。」
彫り師さんに彫ってもらった後、先程食べ損なった昼食を取ろうとそのままその足で食堂へと入れば、最初に視界に入ったのは食べ物ではなく俺にそう声をかけてきてくれたマルコさんであって。その言葉から俺を探していた事が分かったのだけれど、何かあったのだろうかと思い、彼の方へとそのまま近づいていけば、マルコさんは少しだけ驚いたような顔をしたと思ったら急におれの首筋へと手を這わせてきて。
「うっ、ま、マルコさん?」
「いつ彫った?」
「え、あ、ついさっき、です。」
マルコさんのその骨張った手が触れた瞬間、えらく敏感に反応してしまった俺は何とも間抜けな声を出しながら彼の名前を呼んだ。そんな俺にお構いなしにマルコさんは俺の首へとそのまま自分の手を居座らせて先程彫ったその刺青の事を訊いてきた。その言葉に、ようやくマルコさんのその突然の行動の意図を理解した俺はけれどまた同じような声調子で彼に言葉を返した。
「何か彫れない理由でもあるのかと思ってたよい。」
「いや、そんな大層な理由は。ただ、彫るタイミングを見失ったというか、何というか・・・」
「ああ、エースが止めたんじゃなかったのかい。」
「・・・違います。(何でマルコさんまで隊長の名前を、)」
そんな会話をしながらも、マルコさんは未だに彫られたばかりの偉大なその白ひげ海賊団のそのマークをなぞるかのように俺の首へと指を這わせていて。俺の首元へと彼がのぞき込んでそのマークを見ているから、何か問題でもあったのだろうかと思ってその手を離してくれませんかとも何だか言いづらく、こそばゆいとは少し違ったその感覚に思わず彼の服を掴んでいれば、マルコさんはそれに気付いてくれて、俺の方を見上げてきた。「あァ、」
「そういえば、は首が弱かったかい?」
「・・・貴方が一番、よく知っているでしょうに。」
白々しくそんな言葉を俺へと放つマルコさん。俺の弱い所なんて、そんな事、それはもう本人以上に知っているはずなのに、だ。そんな事を思いながら彼へと苦し紛れにそう言葉を紡ぎ出す俺なのだけれど、今更ながらに自分はとんでもない事を言ったのではないのだろうかと一気に熱が顔へと集中してきてしまった。
「今のは、どういう意味だい?」
「 その、ですね・・・・」
「ん?」
ああ、やってしまった。なんて思うには時既に遅く、ものの見事に墓穴を掘ってしまった俺は至極楽しそうに笑みを浮かべて意地の悪い質問をしてくるマルコさんへと視線を強制的に合わせられてしまって。恥ずかしさやら何やらでどうにかなってしまいそうな俺の目を見てくるマルコさんは何を思ったのか、首へと這わせていたその手をようやくそこから退けてくれて。
けれどほっとしたのも束の間、彼はほっとして力を抜いていた俺のその無防備な首元へと自らの唇を寄せてきて、(ああもう、またやられてしまった、)
「うあっ、 もう、マルコさんっ!!」
「 、」
「え、 マルコ、さん?」
思いきり彫られたばかりのその隣へと大きく跡を付けたらしい彼に、俺はその肩を掴んで大きな声で彼の名前を呼んだのだけれど、再びかち合った視線は先程とは違ったそれであって。その変化に俺が途惑っていれば、優しい、俺の大好きなその笑みを浮かべながら、彼は何ともずるい一言を放ってきたのだ。
「似合ってるよい、背負ってるそのマーク。」
ぽんぽん、と俺の頭を撫でてくれながらそう言葉を紡ぎ出した彼は俺がそれを理解するより前にテーブルへと向かってしまって。さっきの言葉は、背負ってるそのマークというのは紛れもなく親父さんを筆頭とした我らが白ひげ海賊団のそのマークということで、そのマークが似合うなんて言ってくれるという事は、つまり、
「( 本当に、敵わないな。)」
先程の彼の言葉を理解すればするほど、こみ上げてくるのは嬉しさであって、喜びであって。顔に浮かんでくる笑みを抑えきれないままに、その場にしゃがみ込んでその顔を隠していれば、「 、」 なんてテーブルへと向かってしまったと思っていたはずのマルコさんが俺の名前を呼びながら前方で立ち止まっていて。
結局、その声に抗えない俺はその抑えられない笑みと熱を持った顔をそのままに、前方で待ってくれているその愛しい彼の元へと駆け寄っていくのである。