真夜中、別に何があったというわけでもなくふと意識が浮上して目が覚めてしまった。仕方がないからゆるゆると閉じていた瞼を開けば、視界に広がるのは隣に寝ているマルコさんの姿であって。彼が俺の隣で寝ているという事実を意識してしまうと、何だか気恥ずかしいような感覚に駆られてしまって。けれど、こうしてマルコさんの隣にいる事自体の嬉しさというか、幸福感に似たこの感情がすぐにその気恥ずかしさを覆った。


「(マルコさんの寝ている姿を見るなんて、何だか新鮮だな。)」


起きなくてはいけない時間になった時でさえ、マルコさんに起こされるという形で目を覚ます俺は普段彼の寝ている姿というのを拝められない。彼が起きる前に起きてみようと試そうとした時もあったのだけれど、結局彼の腕の中が心地よくて世間で言う二度寝をしてしまう有様で。一度だけなら良いものの、何度試してみても最後には彼に起こされるといういつもの朝がやって来るわけで。


「(また失敗したって分かっているのだけど、)」


それでも「早く起きろい。」なんて笑みを浮かべて起こしてくれるマルコさんの姿を見たら、そんなことをやっている自分が何だか阿呆らしくなって。それからと言うものの、彼より先に起きるなんて事をしようとは思わなかったのだけれど、まさかこんな偶然で彼の寝ている姿を見ることができるなんて。本当に新鮮だなあ、なんて思いながら見ていると、いつの間にか俺の手は無意識に彼の顔へと伸びていたようで。


「っ、(・・・何をしているんだ、俺は、)」


指が彼の唇に触れているのに気付いて思わず手を引っ込める。触れたその指だけが何だか妙に熱を持っているように感じてしまって、顔にも熱が集まってくるのが意識しないでも感じられた。触れるなんてこと日常でもあるのだけれど、それを相手が寝ている時に、しかも無意識にやってしまうだなんて、(無意識に、彼を、)


「   、」
「っ!!(起こしてしまったっ!?)」


自分の顔を隠すように手でそれを覆っていれば、隣でごそごそと動く音がして。先程の自分の行動でマルコさんを起こしてしまったのかと彼に視線を向けると、どうやらただ単に寝返りを打っただけのようであって、そこに広がるのは彼の大きな背中であった。


「(   いつ見ても、)」


朝起きて後ろから追いかけるその時であっても、親父さんのおつかいを頼まれて一緒に行くその時だって、何気ない日常で見るその時でさえ、俺の視界に広がるその背中は俺が追いかけるべき、そして俺の大好きなそれであって。

その背中を見ていたら、先程触れて恥ずかしさを感じていたその理性はどこへやら、やはり無意識のうちに俺は両腕を伸ばして彼のその愛しい背中へといつの間にか飛び込んでいて。鼓動は聞こえないけれど、それでも触れているそこから感じるのは心地よい彼の熱であって。彼の腹部へと腕を回してその熱を身体いっぱいに感じていれば俺の耳に響いてきたのは紛れもない、彼の、


「どうせなら、お前ェの方を向いてる時にそうしてもらいたかったよい。」
「っ、な、 マルコさん?」


突然聞こえてきたその声に途惑っていれば、彼はその間に俺に向けていた背中を反対側へと移しかえてしまって。真正面から俺と視線を合わせてくるマルコさんは、至極楽しそうなそんな顔をしていたということくらいしか、今の俺には認識出来なくて。自分がしてしまった行動に今更ながらに顔に再度熱を集中させながら彼から身体を放そうとするのだけれど、それをさせてくれないのは目の前で笑みを浮かべているマルコさんであって。


「ま、マルコさん?」
「まだ、起きる時間じゃねェよい。」


「大人しく俺の腕ん中で寝てろい。」 なんてとんでもない事をさらっと言い放って俺を自分の腕の中へと閉じこめたマルコさん。為す術もなく彼の中へと入れられた俺は、その言葉と、今の自分の状況を理解すればするほど、火照った顔はさらに熱を持っていって(ああもう、何でこの人はこんな、)


「   、」


そんな事をしてあたふたしていれば、耳元で彼のその声で俺の名前を呼ばれる。そして現金なことに、俺の意識はその声に従うかのように徐々に眠気を引き出してきて。もちろんそれに勝てるはずのない俺の瞼はゆっくりと下へ下へと降り始める訳で。


「心配しなくとも、」


「いつもみたいに、起こしてやるよい。」 ぽんぽんとあやすように背中を優しくたたいてくるマルコさんのその腕の中であっという間に微睡みの中へと入っていた俺は、彼の心地よいその声でそんな言葉を聞きながら、いつの間にか彼の背中へと伸ばしていた腕をそのままにしていつものように、夢の中へと落ちていったのだ。

宵闇に融ける

それからまた、いつものように朝を迎えて、



title by Seventh Heaven / 宵闇に融ける