「   ?」
「あ、マルコさん。」


船の脇にあった中身が空になっていた樽へと乗って海を見ていれば、後ろから聞こえてきたのはいつも聞いているその声であって。後ろを振り返ればそこにいたのはやっぱりマルコさんだったから俺は笑みを浮かべながら彼の名前を呼んだ。そんな声に見上げて俺の方を見ていたマルコさんは「何やってンだい、お前さんは。」 なんて少し呆れたような声を出しながら言葉をかけてきた。


「中身は何もなかったですよ?」
「・・・俺が言ってるのはそう言うことじゃねェよい。中身がねェならなおさら、」
「え、   うわ、」


マルコさんの声に耳を傾けようと倒れない程度に身体を傾けたつもりだったのだけれど、そこへ運悪く大きな波に船が当たってしまった。その揺れの瞬間、バランスを崩してしまった俺の身体は当然のごとくそのまま重力に沿う形で甲板へと落ちていくわけで。突然のそれだったから俺は何も対処出来ず、ただその襲って来るであろう衝撃に耐えようと目を瞑ることしかできなかった。けれどいつまでたってもその衝撃とやらが来ない訳で。


「  あれ?」
「あれじゃねェよい。ったく、言ったそばからお前ェは。」


ふぬけた声とともに閉じていた瞼を開ければ、後ろから聞こえてきたのは先程会話をしていたマルコさんの声で。そしてため息混じりの彼の声が妙に近いと感じた時にようやく俺はマルコさんに受け止められたのだということを認識して。その背中に感じる体温を名残惜しく思いながらも俺は慌てて後ろを振り返って彼の怪我の有無を確認した。


「っ、マルコさん、怪我は!?」
「そんなヤワな体はしてねェよい、は?」
「俺は、貴方のおかげで、ありませんけれど・・・」


どうにも情けなく感じてしまい少し口ごもるようにマルコさんに返答すれば、それを不思議に思ったのだろうマルコさんは俺の顔を覗き込んできて「・・・怪我してんのかい?」 なんて心配そうな顔をしてくれる。そんな彼を見ていれば、情けないと感じていたそれは潮風と共に一瞬にしてどこかへと消えてしまっていて。気付いた時には先程感じていたその心地よい温度の元へと飛び込んでしまっていた。


「   ?」
「怪我なんてしてません。マルコさんがそのために俺を受け止めてくれたんですから。」


「それなのに、怪我なんてしませんよ。」 緩みを抑えられない顔を彼の首元にすり寄せてそんな事を言えば、マルコさんは「揺られてる船の上で樽になんか乗る馬鹿がどこにいるんだい。」なんて再度呆れたようにそう言葉を放ちながらも俺の背中へと腕を回してきてくれて。


「う、   すいません。」


それでもやっぱり申し訳ないのは変わらなくて、マルコさんに言われたその言葉におずおずと顔を上げながらそう返事をすれば、目の前に広がる彼の顔は何故か笑みを浮かべていて。「あの、マルコさん?」 見つめられているのが何だか恥ずかしいなんて思いながらも視線を外せないまま彼の名前を口にすれば、そんな彼は俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきて喉を震わせるのだ。


「そんな馬鹿な事をやるのは、俺が側にいる時だけにしろよい。」


「毎回落ちられても、身が持たねェが。」 その言葉を徐々に理解するとともに熱が集中している俺のその顔を両手で優しく包んだマルコさんは、至極楽しそうな顔をしながら俺の唇に自分のそれを寄せてきたのだ。

太陽を焦がす

そんな事をした後はどちらからともなく、笑みを零してその背中へと再度手を伸ばすのだ



title by 鴉の鉤爪 / 太陽を焦がす(ざっくばらんで雑多なお題(日本語))