恐怖を感じる夢を見ていたのだろうか。夢の中から這い上がるように俺は突然に目を覚まして身体を起こした。暗闇に襲われて、俺の還る場所が、この船が見えなくなった。いくら声を出そうとも、いつものように言葉が出てこない。親父さんの名前を呼べなければ、エース隊長の名前も、彼の名前も呼べなかった。
「(夢ごときで、俺は何をそんなにも、)」
寝ている時に気付かないうちに流れていたのであろう、目から出ている水滴が頬をゆっくりと伝っていているのを感じた。俺の今いる場所は紛れもなく親父さんが統括する船で、俺の還る船であるはずなのに、俺の中でうごめく何かを感じてしまって。
「朝、か。」
ふと窓の外を見れば夜にはない独特の日差しが出ているのに気付き、もうすぐ起床時間なのだと理解する。この時間なら彼は食堂でコーヒーでも飲んでいるだろうか、そんな事を思うやいなや、俺の足は無意識のうちに彼のいるであろう場所へと駆けだしていた。
「 マルコ、さん、」
「 ?どうしたんだい、こんな時間・・・っ!!」
他の場所なんか目もくれずに食堂へと行けばそこには探していたマルコさんがいて。俺は声を絞り出すように彼の名前を呼んだ。そうすれば、彼はその顔を俺の方へと向けてくれて俺の名前をいつものように呼んでくれるものだから、俺はまた無意識のうちに彼へと抱きついていた。
「 どうしたんだい、。」
俺の突然の行動にも、マルコさんは対応して俺をしっかりと受け止めてくれる。それからその言葉をかけてきたのだけれど、それに返事をするほどの余裕が今の俺にはなかった。先程感じたそのうごめく何かを必死に取り除くように、俺の存在を、俺の還る場所を確かめるように、目の前に広がるその光へと俺は縋り付くように腕を回した。
「 お前ェは、(まったく)」
「・・・すみません、」
俺がその返事の代わりに行動で示した事に、呆れてしまったのだろうか。マルコさんはため息混じりにそう言葉を紡いだから、俺は申し訳なくなって謝罪の言葉を口に出しながらゆっくりと彼から離れようとしたのだ。けれど、それを良しとしなかったのは俺の目の前にいるマルコさんの方であって。俺が身体を離そうとしたその瞬間、彼は俺の背中へと回していた腕を先程よりも強くして、俺の後頭部へと片手を持っていき俺の顔を自分の胸元へと押しつけた。
「わっ、 マルコ、さん?」
「別に、呆れたわけじゃねェよい。悪い夢でも見たんだろい?」
内容を思い出したくないし、言いたくもなかったから俺はゆっくりとマルコさんの言葉に頷くだけ頷いた。俺のその様子から何かを感付いたのか、マルコさんはそれ以上聞かないでくれて俺の背中を優しくさすってくれた。彼の胸元から聞こえてくるその鼓動に、俺を包んでくれるその心地よさに、ようやく中にあったその何かを落ち着かせる事ができたそんな時、マルコさんは俺の名前を呼んで言葉を続けた 「何の夢を見たか分からねェが、」
「お前はここにいるし、俺もここにいるよい。」
「だから、そんな顔をするなよい。」 そう言われて顔を上げれば、目尻に溜まっていたのだろうその雫にマルコさんは笑みを浮かべながら自らの唇を寄せてくれて。それからマルコさんは瞼へ、頬へ、唇へと順に触れてくれ、「こうしてに触れてるのは、夢なんかじゃねェよい。」 なんて俺の大好きなその声で、俺の中のそれをいとも簡単に取り除いてくれたのである。(本当に、貴方って人は)
箱の中身を当ててごらん
俺の中のそれを、愛しい貴方はいつもすぐに見つけ出してくれるのだ
title by 赤小灰蝶 / 箱の中身を当ててごらん