「(駄目だ、部屋で寝てこよう。)」
このまま起きていようとも考えたけれど、別に何の用事もなく甲板に出て海を眺めていたのだから頑張って起きている必要も何もないと判断した俺はその考えを瞬時に捨てて、今にもくっつきそうな瞼を開けて何とか光を入れて覚束ない足取りでふかふかのベッドがある部屋へとゆっくりと歩を進め始めた。けれどその進行はすぐに遮られてしまって、
「う、わ、」
どうやら少し光が入る程度ではやはり視界は狭すぎたらしく、さらに下ばかりを見て歩いていた俺はぶつかるということを頭に入れていなかった。どん、と頭をぶつけてしまい目の前に何かがあるのだとようやく気付く。俺の目の前に現れたのは大きな影とその影の本体である大きな壁・・・と思って見上げたら
「 何してんだい、。」
「・・・壁が、しゃべった?」
「・・・人にぶつかっておきながら何ふざけた事を言ってんだい。」
思考力の低下している今の俺にとって、その喋る壁が、我らが白ひげ海賊団の一番隊隊長であるマルコさんだと理解するのに、時間をたっぷりと要したのは至極当然の事だと俺は思うわけで。俺が今にも眠りそうな事に彼も気付いたのか、俺の開いていないようでうっすらと開いているその瞳を覗き込んで来てくれたから、俺は喋る壁ではなくてマルコさんだと言う事に気付くことが出来た。
「 マルコ、さん?」
「あァ、合ってるよい。 どこにいるかと探して見りゃ、」
「そんなんで、とても部屋まで辿り着けると思えねェよい。」 なんて人の努力を無駄にするような言葉を普通に放ってくるマルコさん。行きますよ、なんて反抗したかったのだけれど、今のマルコさんの言葉ですら理解するのに時間が掛かり、その上彼にぶつかった手前、そんな事を言うにはとても状況的にも困難だった。
「・・・努力します、」
「どの口がそれを言ってんだい。」
けれど口に出せるのはそんな言葉しかなくて。案の定、即答で返されてしまったその言葉に俺は耳を傾けるだけ傾けたが、脳内でその言葉を処理できなかった(いや、しなかった。) それから俺は、本能に従うが如く、目の前にある心地の良いそれと認識している彼の胸へと、一直線に飛び込んだ。
「言った側から人の胸に飛び込むんじゃねェよい。」
「・・・マルコ、さん、」
「(こいつは、) まったく、 」
そんな心地よい彼の胸へと飛び込んだら最後、脳内に残っていた最後の砦はあっさりと崩れ去ってしまい、気付いた時にはマルコさんの背中へと腕を回して一応光を入れているつもりだった瞳も一切入ってこないようにしっかりと瞼を閉じてしまっていた。
「さすがに立ちっぱなしはきついから部屋に運ぶが・・・、」
「 ん、」
辛うじて聞こえてきたマルコさん言葉に頷くだけ頷いたけれど、離さないと言わんばかりに俺の身体はマルコさんにぴったりとくっついて。しかし無意識にやってしまった事なので、俺はマルコさんにそんな事をしてしまっているのに気付くわけがなかった。そんな意識が曖昧になっていく中、それでも、俺の意識にははっきりと、
「そんな抱きしめてこられなくとも、離さねェよい。」
急にひょいっと自分の体が重力に逆らって浮いた感覚と、俺の耳元で響かせるマルコさんの声だけが妙に鮮明に俺の中に残ったのだ。
無意識の渇望
睡眠を欲している身体は、どうも本能からの欲求が出てしまいがちのようで
title by 赤小灰蝶 / 無意識の渇望