「 (ああもう、)」
トラウマを忘れている事は人によったら良い事に聞こえるかもしれないが、俺としたらそれは困るものでしかなかった。トラウマを覚えていればそれを乗り越える事をある程度は容易にしてくれるだろうし、訳も分からなく不安感を覚えているよりかはそっちの方がましだと思うからだ。しかしそんな事を今更言ったって仕方がないわけで。
「(そして何でこういう時に限って見張り番なんか、)」
これだけの人数がいるのだからそうそう見張り番なんて回ってくるものではないはずなのだけれど、今日はどうやら俺の所属する2番隊がそれの当番になっているらしく、俺は前回見張りへと出なかったから今回は出なくてはいけなくて。何でこうも丁度良いタイミングで当たるかな、なんてため息を吐きながらどこまでも広がるその海を見ていると、再度雷が光って大きな音を鳴り響かせた。
「 っ、(嫌になる・・・)」
意味もなく(いや意味はあるのかも知れないけれど、少なくとも俺はその意味を覚えていない)震える自分の腕をもう一方の手で掴んで何とか沈ませようとする。見張りをするのは夜の海を見ていられるから嬉しいのだが、如何せん天候が俺に味方してくれない。航海士ではないから良く分からないが、目の前にある雷雲はしばらくそこを動いてくれそうになかった。
「・・・はあ、(雷さえなかったら海を堪能出来るのに、)」
「何ため息してんだよい。」
「っ! マルコ、さん?」
「見張りは好きだと聞いた事があるが?」 そんな事を言いながら俺の隣へと腰をかけてくるのは1番隊の隊長であるマルコさんであって。今日は彼らの隊の仕事ではないはずなのに、そんな事を思っていればどうやらそれが顔に出ていたようで、マルコさんは俺が自分の腕を押さえているのを見ると口を開いた。
「お前はもう少し、人に頼るってことを覚えろい。」
「何もそこら辺の奴等全員にってわけじゃねェが、」 そう言いながら立ち上がったマルコさんはそのまま言葉だけを残して去るのかと思えば、俺と壁の間に身体を無理矢理に割り込ませて俺を後ろから抱きかかえるようにして再度腰を下ろしてくるという先程の言葉よりも理解しがたい行動をとってくれた。
「 マルコさん、何ですかこの格好は。」
「は大人しく見張りをしてろい。」
大人しく見張りをしていたのにそれを破ってくれたのがマルコさんなんですが、そんな言葉を紡ぎ出そうとしたけれど、背中から感じるマルコさんの体温が心地よくていつの間にか腕の震えが止まっている事に気付いて。(ああもう、この人は本当に)
「 マルコさん、」
「ん、どうしたんだい?」
「・・・ありがとうございます。」
俺が小さくそう感謝の意を述べれば、後ろにいるマルコさんは少し笑ったような気がしたけれど、生憎俺は彼に見張りをちゃんとしろと言われたものだから本当に笑っているのか見る事はできなくて。何でもお見通しのようだった彼に、今更迷惑なんじゃないかと思いそれを口にすれば、
「俺の意志でこうしてンだ、誰にも文句は言わせねェよい。」
なんて言葉が返ってくるわけで。そんなマルコさんの反応に俺はまた嬉しさからか何なのかは判別できなかったけれど、顔には笑みを浮かべてしまうわけで。「 ずっといてやるよい。」 後ろから聞こえてきた低くて優しいその声に、俺は安堵感とはまた何か違った心地よさを覚えるのだった。