「   、」


決して大きくない、けれど今の今まで寝ていた俺にさえ、鮮明に聞こえてくるその声に、俺はゆるりと瞼を開いた。心地よいそのぬくもりに身体を委ねていたけれど、それはどうやら夢の中だけではなかったようで、視界に広がるのは、身体の所々から感じるのは、


「  ルフィ、」


こんな時間に起きるはずのない、いつもなら誰かにたたき起こされるようにして起床する彼が、こんな真夜中に、笑みを浮かべて俺を起こしてくるなんてそんな珍事に、なんとなく起こした、なんて彼が言うなれば納得してしまうかも知れないけれど・・・でも、今日、彼がこうして俺を真夜中に起こすのには、ちゃんとした理由があることを、俺は知っていて、


「月は、てっぺんまで昇ったのかい?」
「おうっ!ばっちりのぼったぞ!」


「だから、なっ!っ!!」 周りで寝ている仲間達に配慮しているのだろう、楽しそうに俺へと放たれる声は、少しだけ抑えめにされたそれで、囁くように俺の耳へと届いた。声どころか、待ち遠しいとその顔ですらも見て取れるから、思わずそんな彼にゆるりと笑みを浮かべてしまう。


「・・・ありがとう、ルフィ。」
「ん?何がだ、?」


彼が待ち望んでくれていた言葉よりも、最初に出てしまっていたその言葉。何が、と彼から尋ねるような言葉が聞こえたが、正直、その言葉を紡いだ俺自身も、具体的なそれを答えられない。

きっと、全部、総て、なんだ。こうして、彼が俺の言葉を待ち望んでいてくれた事も、彼と一緒に、こうしてお互いを感じあえる事も、彼と、仲間と一緒に航海できる事も、彼に出会えた事も、・・・そして、何より、 彼がこの世に、生を授かった事が、


「??、どうした?」
「 ふふ、 いや、何でもない。」


不思議そうにこちらを見るルフィへと手を伸ばして、その柔らかな髪の毛にゆるりと指を絡める。それからその手を頬へと下ろして、彼の顔を、両手を伸ばして包み込んだ。でも、そうやって自分が彼を包み込んでいても、実際は彼に自分の全てを包み込まれている気がしてならないのは、


「 ルフィ、」
「ん? 何だ、っ!」


俺のその声色に気づいたのか、何なのか、俺が今から言わんとしている事を理解したらしいルフィは、きょとんとしていた顔に、きらきらと、太陽が海へと注ぐ光のように、輝くようなその笑みを再度浮かべて、俺の名前を紡いでくれる。神なんて存在を信じている訳ではないけれど、その有無すら、自分の運命には関係ないと思っているけれど、(願わくは、彼と共に歩いていけるようにと誰かに、何かに祈ってしまうのは、)


「 誕生日おめでとう、ルフィ。」


「これからも、よろしくお願いするよ。」 そう言って、ゆるりと彼の唇へと自分のそれを寄せれば、彼はそれを受け入れてくれる。「にしし!」なんて嬉しそうに笑い声を漏らして、そのまま俺の身体に自分の身体を飛び込ませて、背中へと手を伸ばして、物理的にも、俺を包み込んでくれる。心地よいそれに、思わず瞼を下ろしてしまっていると、耳元へ、深海のように澄んだ、その愛しい声が、


「ああ、これからも、ずっと一緒だぞ。」


海のように、全てを包み込んでくれるその声が、例外なく、俺の中へと染みこんでいくのを、俺はじわりとしっかりと身体のすべてで感じ取ったのだ。

愛する生へ、愛しい挨拶を

嬉しそうに笑う彼の顔が再度俺に近づいてくるのを、俺はゆるりと瞼を閉じて受け入れた。