、バイオリン弾いてくれよ!」 我が船長にそれは唐突にそんな事を言われて、甲板へと連れ出された。そしていつの間にやら、彼の手には男部屋に置いてあったはずの俺のバイオリンが。突然のそんな申し出、けれどそれを言ってくれたのが俺の愛しいその人であれば、そんな彼が待ち遠しそうに笑みを浮かべていれば、  断る訳には、いかなくて。


「では、我が船長に向けて、」
「にしし!おう!!」


笑みを浮かべて返事をしてくれたルフィに微笑んで、バイオリンを構える。それから、1音、また1音と。その音が届くたびに嬉しそうに笑みを浮かべるルフィを視界へといれながら、音を本能的に感じるようにゆるりと瞼を下ろした。

昔から、音楽が好きだった。いつも崖の近くで、海が一面に広がるその場所で、何度も何度もその音を鳴らしてきた。そうすれば、海に近づけるんじゃないかと、対話できるんじゃないかと、淡い期待を抱いていたのも、音楽を続けてきた理由かもしれない。


「(今でも、その答えは見つからないけれど、)」


海と対話できているのか、近づけているのか、こうして弾いている今も分からない。それでも、広大なその海に1音でも多く自分の声が届けばと、いつも願いながら弾いているのは確かだ。・・・ああでも、今は目の前にいる彼の為だけに、彼に届くように、弾いているのだけれど



「しし!やっぱ俺、のバイオリンも好きだなァ!」


「ブルックとはまた違うバイオリンの音だ!」 弾き終わって一礼すれば、拍手とともに返ってきたのはそんな言葉で。嬉しそうにそう言ってくれた彼に、礼を述べようと、口を震わせる。けれど、声を乗せる前に彼の手が、俺の腕へと、「 う、わっ、」


「 ルフィ?」


バイオリンを持ったまま、何故かルフィに腕を引っ張られ、そのまま彼の方へと勢いよく飛び込んでしまう。視界に広がる景色が安定し始めた時には、すでにルフィが俺の胸元へと顔を擦り寄せている状態になってしまっていた。そんな彼の急な行動に俺がふぬけた声で彼の名を紡げば、


の音、 すげー気持ちいいんだ。」


「海に揺られてるみてェで、ここの音、聞いてるみてェで。」 甲板へと背中を付けさせられて、潮風に乗って脳内へと響いてきたその言葉。胸元で聞こえてくる一定の音、目の前に広がる海から聞こえてくるその音に、俺の、音楽が・・・?


「 ルフィ、(どうして、こう、君は、)」
「ん?なんだ、?」
「ありがとう、」


「んん?何で礼なんか言うんだ?」 不思議そうにそう言うルフィに俺は構わず腕を回した。たぶん、彼がそう言うならきっとそうなんだろう。いや、それが違っていても、別に良い。ルフィが俺が奏でるその音で、嬉しそうな俺の好きなあの笑みを浮かべてくれるなら、それで、


「俺、の音、大好きだぞ!」


「あ、も大好きだからな!」 そう言葉を紡いでくれた我が船長は、溢れ出してくる感情が抑えきれなってしまう俺の事を全て悟っているかのように、ゆるりとその唇を俺へと、

優しい海の音色

彼から響くその声は、たぶん何よりも一番、偉大なその海に、



title by 赤小灰蝶 / 優しい海の音色