暗闇が怖いわけではないし、そこに漂う孤独感に苛まれているわけでもない。むしろ流れるその静寂が好きだったりするくらいだ。 けれど、偶に、その目の前に広がる闇に自分が喰いちぎられるような感覚に陥ってしまう時があって。


「(  ああ、またか、)」


何故、そんな感覚を覚えてしまうかは分からない、・・・その上、その原因が分からない所為で、俺の身体は余計と敏感にその感覚に反応してしまって。喰いちぎられるなんて事、あるはずがないと頭では分かっているのに、どうしてか身体はひどく拒否反応を起こして、俺の脳内を、理性を片っ端から壊そうとする。何の規則性もなく偶発的に起こるそれに、俺はもちろん抵抗を試みるのだけれど、中々上手くいった試しがない。


「(  ・・・海を見てくるか?)」


目を開けている今でも少しだけその感覚に襲われていて、無理矢理寝ようとしても寝られる状況じゃなかったから、諦めて落ち着くまで起きていようかとなるべく音を立てないようにとベッドを降りる。それからいつものように感覚が消え失せるまで、と、甲板へと足を向けようとした、そんな時、


「   、」
「っ、」


背後で聞こえるはずのない声が俺の耳を貫いた。多分、感覚が敏感になっていた所為だろう、聞こえてきたその声に、思わず身体を情けないほどに反応させてしまった。その反動のまま、ぐるりと勢いよく後ろへと振り返れば、眠たそうに手で目を擦りながら俺の方を見ていたルフィの姿が、視界に入ってきた。


「あ、 ああ、ルフィ。」


その声で、彼が起きてしまったのだと分かっていたはずなのに、彼が自分の視界に入ると何故だか安堵感を覚えてしまった俺は、唇を過剰に震わせながら、ルフィが寝ているそのベッドへと近づいた。


「  ・・・すまない、起こしてしまったか?」
「 何で、そんな顔してんだ?」
「   そんな、顔?」


寝惚けている所為か、いまいち噛み合っていない彼の返事に、けれど俺は内心ビクリと震わせた。先程の感覚が消えた訳ではなかったから、ルフィに気付かれまいと思っていたのに、どうやら彼はもう既に気付いていたらしい。近づいてきた俺の顔へとゆるりと手を伸ばして、


「何が、をそんな顔にさせてんだ?」
「   何、だろうね。」
「??」


「実は、俺もよく、分からないんだ。」 もう、ルフィに隠しても遅い事を知った俺は早々に誤魔化す事を諦めて、彼に正直に言葉を返す事にした。彼を困らせたい訳じゃなかったが、彼を目の前にすると、どうも嘘を突き通す自信が俺にはなかったから。


「んー、よく分かんねェけど、」
「  わっ、 」


そう言葉を放って、触れられていた手をそのままに心地よい彼の温度を感じていれば、しばしの沈黙が流れた後、それを破ったのはルフィの方で。頬に触れていたその手が、するりと今度は首の後ろへと回る。けれど俺がそれに気付く前に、俺の身体は一瞬宙に浮いて、ぼすんと音を立てて俺の身体はどこかへと着地して、


「  ル、フィ?」


それから、自分の着地したその場所が、彼のベッドの中であると理解したのは、俺の視界に広がったそれが彼の首元だと認識したからで。背中に感じる自分とは別の体温と、頬に当たるその吐息が、彼に抱きしめられている事を伝えてくれる。突然のそれに、されるがままになってしまった俺は、状況は理解できても何故こんな事になってしまったのかは分からなくて、彼の名前を口に出す事しかできなかったのだけれど、それすらも構わず、 彼は、  ルフィは、


「俺が、そんな顔させねェようにするからな。」


「    、」  聞こえてきたその声が、彼から伝わってくるすべてが、俺の中にあったその感覚を一瞬にして、全て消し去ってくれるように感じて、思わず彼の背中へと思いきり腕を回した。(ああ、君という人は、  なんて、)

到達点に落ちる

彼から伝わってくる全てが、俺の中へと満ちて、溢れて、



title by 鴉の鉤爪 / 到達点に落ちる(ざっくばらんで雑多なお題(日本語))