「んっ、 ロー、せん、!」
「フフ、少し黙ってろ。」


両手首を壁に押さえつけられて、その上、唇を急襲されてしまってから、どれだけ時間が経ったのだろう。いや、実際にはそれほど時間は経ってないのかも知れない。時間が長く感じたのは、手は押さえられているものの、その中に乱暴さがまるでなくて、全てをゆっくりと浸食していくように船長のそれが重ねられた所為なんだろう。けれど、それは決して逃れることなんてできない、


「っは、」
「 フフ、ずいぶんといい格好になったなァ、。」


ようやく、塞がれていた口から酸素を体内に取り込む事が許される。一気に吸い込んでいると、楽しそうなその声が目の前から聞こえてきた。それから、全身を、頭のてっぺんから足先までじっくりと視線で追った船長は、再度俺の目を捉えて、口角をゆるりと上げた。


「・・・ほんとに、いつも、急っ、 ん、」
「何だ、俺はてっきり、急襲されるのがお好みかと思ってたんだが、」


「違ったのか?」 なんて、どうせ首を縦に振ることしか許されない、ずいぶんと自分に都合の良い解釈を俺に突き付けてきながら、船長は俺の背に手を入れ込んで下から撫で上げた。自分よりも冷たいその指に俺の身体は当然のように震えてしまって、彼の悦楽を助長させてしまう。


「・・・言葉くらい、まともに喋らせてくだ、っ!」
「フフ、喋らせてやってるだろう?ちゃんと会話できてるじゃねェか。」
「・・・、(本当に、人の話を聞かない、)」


言葉を紡ぐために喉を震わせていれば、そこを赤いそれで舐められて、吸い上げられる始末で。その位置から俺の目と合わせているのだから、船長は自然と見上げる格好になっているはずなのに、何故か俺の方が見下ろされている感覚になるのは彼の毅然とした自分勝手な態度の所為か、 それとも、


「っ、ふ、」


そんな事を思っていると、集中しろと言わんばかりに再度唇を重ねられた。当然のように舌を入れ込まれ、俺の意思なんてまるで関係のないように、文字通り、好き勝手に口内で遊ばれる。呼吸も勝手にする事は許されなくて、船長の意のままになってしまっていた。


「、っ、せん、ちょっ、」
「何だ、?」
「何だ、じゃない、です、」


酸素を吸い込みながら、なんとか船長へとそんな言葉を吐き出した。別に船長との行為が嫌な訳ではない。・・・というか、嫌なはずがないのだ。だから、唐突のそれにも文句は言いながらも、拒むなんて事はしないのだけれど・・・彼の、俺の手首を押さえていない方の、その手が、


「質が悪い、ですよ、」


背中をゆっくりと何度も行き来したか思えば、脇腹をゆるゆると執拗に撫でられる。それから、腹部に回って、次に腰に落ちたかと思えば、また背中に戻って。指先を這わされ、掌で揉むように撫でられ、執拗にそればかりが繰り返されて、焦らす事が目的だという事をあからさまに俺に知らせるような触れ方しか、船長はしてくれなくて、


「フフ、ひでェ言い様だな、可愛い部下を労ってやってるつうのに。」


「これのどこが質が悪ィっつうんだ?」 なんて、わざとらしくとぼけた返事をしてきて。しかも知らない振りをしながら、それを隠す気もやっぱりないらしい。顔には至極楽しそうな笑みが浮かんでいるだけだった。白々しいその態度に、意味のない、というかむしろ船長を煽ってしまうだろう事が分かっていても、耳の裏に何度目か分からない鬱血痕を付けてきた船長へと眼光を鋭くすることしかできなかった。


「・・・そういう所が、質悪いっていうんです。」


「自覚、あるでしょう?」 憎まれ口を叩けば、返ってきたのはやっぱりニヤニヤと海賊らしいその笑みで。それから、今も十分に触れているその身体を、俺の脚の間に自分のそれを割って入り込ませて密着させて、身体中を這い回っていたその手で俺の顎を掴んで、「 フフ、」


「そんな俺を、愛して止まない奴は誰だ?」


・・・ああ言えば、こう言う。本当に、何でこんな人が長をしている船に乗っているんだろうと稀に思う事があるけれど、そんな事を考えたって行き着く答えは結局同じなのだ。だから、俺は懲りずにこの人の下にいるのだし、これからもずっとそれが変わることはない。分かりきっている質問に、どう答えて欲しかったのかは知らないけれど、変わらず顎に手をかけ、じっと俺と視線を合わせている船長へと口を開いた。


「・・・愛してるに決まってるでしょう、」


「そうじゃなかったら、口に入り込まれた時点で舌を噛み切りますよ。」 そんな言葉に返ってきたのは、言葉だけではなかった訳で。

優しい手

「フフ、ずいぶんと可愛らしい答えだ。」 なんて紡いだ瞬間、再度唇が急襲された。




title by Lump / 優しい手(優しい恋人と5題)