「   、」 今日は訳の分からない(船長に逆恨みだか何だかしていたらしい)海賊と戦闘をしたため、その疲労感から早々に夢の中へと旅立っていた俺はその夢の奥から自分の名前を呼ばれた気がして。呼ばれた気がしたというだけでそのまま夢の中へと沈み込んでいけば良かったものの、何だかその声の主はそれを許してくれないような気がしたから俺は嫌々ながらも自分の意識を浮上させた。


「・・・何してんですか。」


目を開ければそこに映るのは天井だけのはずであるのに、俺の視界のほとんどは先程俺の名前を呼んだ声の主で埋めつくされていて。突然のそれに処理しきれなかった俺の脳内は、ひどくありきたりな言葉しか紡ぎ出せなかったようで、ふぬけた声でようやくそれを口に出した。


「俺の愛しい部下が、もう寝ちまったと聞いてな。」
「そう聞いたのなら寝かせてくださいよ、貴方と違って俺は前線で戦ったんですから。」


口の端を上げて楽しそうにこちらを見つめる彼は、紛れもなくこの海賊船の長であるロー船長であって。というか俺の部屋に侵入して何を悪びれもせずそのままベッドへとこうして乗っかってくる人なんて彼しかいないのだけれど。彼曰く愛しいらしいその部下が眉間に皺を寄らせているというのに、そこから退ける気がないのはその顔を見ても明らかであって。


「だからご褒美にこうして俺が来てやってるんだろう?」
「・・・そんなご褒美いりませんよ(というか、自分が来たかっただけでしょう。)」
「フフ、相変わらず冷てェことを言うなァ?」


「俺は、お前の事を想って言っているんだが?」 なんて心にもないことを言いながら、首元に顔を埋めてさらに身体を密着させてくる船長。彼がここにいると理解したその時から、もう俺に決定権などないなんて事は既に分かり切っていることなのだけれど、それでも眠たいのは変わりないから一応「船長も酒を飲んでいるのなら眠いんじゃないですか?」とそれとなく聞いてみれば、返ってきたのはまたおかしな言葉であって。


「眠気はないが、お前と寝る気ならある。」
「・・・上手くないですよ。(何ですかそれ)」


むくりと首元を上げた船長はそんな訳の分からない言葉を放つと同時に俺の唇へと自分のそれを重ねてきた。この行動からも、どうやら「寝る」というのはただ単に睡眠するという意味を全く含んでいないらしい事を嫌にでも理解させられる訳で。


「  、」


夢の中で呼ばれたそれと全く同じ声調で言われる俺の名前は、夢の時よりも何故か脳内に響いてきてしまって。語尾を上げずに言ってくるものだから承諾を得るそれではないのだと想っていたのだけれど、目の前にいる彼は俺の瞳を見たまま動かなくて。俺が何を言ったって自分のやりたい事しかしないでしょうに、なんて言ってやりたかったのだが、口から出て来た言葉は彼に期待に添うようなそれであった。


「我が愛しい船長の、思うままで良いんじゃないですか。」
「   フフ、言ってくれるじゃねェか。」


「もちろん、それ以外の返答なんて認めねェが。」 なんて俺のその言葉を聞いた途端、至極楽しそうに笑みを浮かべた船長は予想通りな言葉を俺に放ちながら俺の唇を急襲してきたのである。

宵闇に酔いを覚えて

それの所為か、いつもよりも簡単に彼の侵入を許してしまったと思うのは気のせいだろうか



title by 赤小灰蝶 / 宵闇に酔いを覚えて