自殺願望がある訳でもなく、老いていき死んでいくという訳でもなく、今、俺が急に死んだらどうするか、なんてことを船長に突飛な言葉を俺は放った。俺を挟むようにして真後ろに座っている船長は「何だ、いきなり。」 なんてごもっともな返答をしてくる。
「いや、別に意味なんてないんですが、」
そんな彼に俺はまた訳の分からない返事をして。自分でも何で今そんな質問をしたのか分からない、言うなれば、そう、ただ何となく、だ。先程も言ったけれど、別にいますぐ自ら生命を絶つつもりなんて毛頭無いし、殺されるつもりもない。ただ何となく、俺が死んだらこの人がどうするのだろうか、とふとそんな事が頭に過ぎっただけで。それが意識しないうちに口から言葉となって出て行っただけで。けれど言った瞬間から、彼がその質問に答えうる言葉なんて分かり切っていた。
「 どうもしねェな。」
「人間、いつかは死ぬだろ。」 なんて俺の髪に自らの手をゆるゆると絡めながらそれが当然のように返答した。けれどそれはやっぱりと言葉を漏らすような返答であって。俺の属している船の長はそう言う人なのだなんて今更ながらに認識する。
部下の死に泣くわけでも、特に変わったことをするわけでもなく、それをただ受け入れる事しかしない。その受け入れる事が案外難しかったりするのだけれど、そこは今論点に挙げるべき事ではない。「そうですね、」なんて俺が驚きもせずにそう言葉を返せば、彼はまたゆっくりと喉を震わせて言葉を放つのだ。
「けど俺が側にいる限り、お前は死なねェだろ?」
「お前は死なねェし、俺が死なせねェ。」 続けざまにそんな勝手な言葉を放って、俺の顔をくいっと自分の方へと向かせる船長。視線がかち合った時の彼といえば、至極楽しそうに笑みを浮かべていて。死ぬ云々の話をしているのにこの船長は、なんて思うのだけれど、それを言葉にして口から出さなかったのは俺自身もその顔に笑みを浮かべているからで。
「 、」
「何ですか?」
「お前は、俺が死んだらどうする?」
俺がした質問をそっくりそのまま返してくる船長、けれどもちろん死ぬつもりがない事は今にも俺の唇を急襲してきそうな位置にある船長の顔に明白に映し出されていて。そんな彼の言葉に「船長は死にませんよ、色んな意味で。」 なんて皮肉混じりにそう返せば、「フフ、俺が死なせませんとか言ってくれねェのか?」 とか何とかわざとらしくそんな言葉を紡ぎ出してくるわけで。けれど船長は自分の言葉に俺からの返答は最初から聞く気がなかったようで、俺が喉を震わせて言葉を出そうとした瞬間、彼の唇が俺のそれへと噛み付いてきたのである。
決められた枠からはみ出した
そんな船長だから、俺はきっと
title by 赤小灰蝶 / 決められた枠からはみ出した