「なっ、」
ある酒場のカウンターで喉を酒で潤していると、いかにも怪しげな奴等が俺の肩を叩いて「なあ、坊主。俺達とゲームしねえか?」 なんて言ってきたから、久しぶりにやってみるかと思い、そのカモに乗ったのだけれど、
「(・・・こんなイカサマで、何でこいつらはあんなに自信満々だったんだ。)」
彼らの顔を見るとあからさまに俺にはクズなカードばかりを回していたのに、なんて表情を浮かべてこちらを見ていた。どうやらディーラーの奴も仲間のようで「お前、ちゃんと回してんのかっ!?」なんて小声で話しているのが俺の耳に聞こえてくる。自信に満ちていたから少しはやるのかと思って自らカモになったというのに、そんな事を思いながら彼らの言い合いを聞いていると思わず俺の口からはため息が出てしまっていたようで。
「っ!!お前イカサマしてんだろっ!!」
「 はい?」
俺のため息が気に入らなかったのだろう、勝負を挑んできた奴が青筋を立ててこちらに怒鳴ってきた。自分達の事を棚に上げて何を言っているのだろうか、この輩は。「イカサマしているのは貴方達でしょうに。」 最早呆れるしかない彼らの言葉にそう返答すれば、彼らは汚い笑い声を上げながら俺に「そんな証拠がどこにあるんだよ、坊主?」 なんてまだ自信満々にそんな事を言ってくるものだから、俺は見受けられる状況証拠をつらつらと述べてやった。
「その左袖の中にあるカード、」
「っ!?」
「それから観客としては妙に近いそこの2人、彼らのズボンの中にも束が入っているんでしょう?」
「な、ならこいつらから離れてやっても良いぞ!!」
「それなら、ディーラーも変えてくださいよ。」
「なっ!?」
「見破られないとでも思っていたんですか。」どうやら彼らのやっていたイカサマはそれだけだったらしく、俺がそう最後の一言を放つと彼らは負け犬よろしく「お、覚えとけよ!」なんて言い放ちながら金を持ち去らずにそのまま酒場を逃げるようにして出て行ってしまった。何から何までなんてお決まりな奴等だったんだ、わざとカモになる事までしたのに、なんて思いながら酒をぐいっと口に含んでいると後ろからやってきたのは、
「フフ、口ほどにもねェ奴等だったな。」
「 船長、」
先程まで奴等が座っていたイスへと腰を下ろして俺にそう声をかけてくるロー船長。どうやら一部始終を見ていたらしく、俺が至極つまらなさそうな顔をしているのを見ながらそれを楽しんでいるかのように笑みを浮かべていた。そんな趣味の悪い船長に視線を合わせていると、机の上に彼は今まで使っていたカードをすっと出してきた。
「 何ですか?」
「俺となら、張り合いがあるだろ。」
「もちろん、イカサマは一切なしだ。」 先程の奴等とは全く違う様子で自信に満ちた顔でそんな事を言ってのける船長。負ける気がしないのだろう、船長は余裕な様子でその長い足を組みながら俺に勝負を挑んできた。イカサマなしということは船長にも不利に働く可能性だってあるはずなのに、何でこの人はこんなにも・・・? けれどゲームをやってみればその理由はすぐに判明してしまった訳で、
「 ロイヤル、ストレートフラッシュ?」
「 俺の勝ち、だな。」
俺は自分で運は強い方だと思っていた、現に俺の役はフルハウス。イカサマなしの一発目で出た役にしては上々な滑り出しだと笑みを浮かべていたのに、目の前に出された役はそんな俺の役よりも上を行くそれであって。しかもそれをイカサマなしの一発目で、この人は・・・
「 常人じゃないでしょう、まったく。」
「フフ、ひどい言われようだな。」
「言っとくが、イカサマはしてねェぜ?」 なんてニヤニヤと至極楽しそうに笑みを浮かべてこちらを見てくる船長。イカサマなしだから、余計に驚いているのだ。どれだけ確率の低い役を揃えたのか彼は分かっているのだろうか。カードにちらりと目をやれば、スペードのキングが船長に見えてきて、さらにそのキングは船長と同じく楽しそうに笑みを浮かべている気がしてならなかった。(・・・本当に人間業じゃない。)
「 、」
「何ですか、船長?」
「この勝負、俺の勝ちだな。」
「 はい、そう、ですね。」
頬杖をつきながらそんな事を言ってくる船長に、俺はただただ嫌な予感しか覚える事が出来なくて。しかし負けは負けだから彼のその言葉に頷くことしかできないわけで。視線を外せば良いのに彼のそれに絡められたまま離す事の出来ない視線が捉えたのはすっと立ち上がって俺の方へとやってきて、そのまま肩へと俺を担ぎ上げる船長の姿だった。
「 て、ちょっと船長?」
「何も賭けねェだなんて、誰が言った?」
船長に担がれている所為で彼の顔なんて見えやしないのだけれど、その言葉を聞いた瞬間にこれまた至極楽しそうに笑みを浮かべていることだけは簡単に予想がついて。持ち上げて支えている手とは別の方の手で俺の腰やら脇腹やらを妙な触り方で触れてくる彼の手、いつもならすぐさまその手を退かそうとするのだけれど、生憎と今日は状況が状況であって。
「フフ、大人しく俺に喰われろ。」
「安心しろ、食い残しなんてもったいねェことしねェから。」 なんて見当違いな言葉を吐く船長に、俺はそこから落ちないように彼の背中にしがみつくことしか出来なかった。
既に勝ち目はない
運も実力のうちと言うけれど・・・それにしたって、
title by 赤小灰蝶 / 既に勝ち目はない