「(・・・全く何で俺が、)」
船長の部屋の前で深いひと息を吐いて一応ノックをして扉を開ける。視線に広がるベッドには1人分の膨らみがあって、船長が熟睡しているのをあからさまに物語っていた。船員と言えど、人が自分の部屋に入って来たというのに起きる気配がまるでないのに呆れを通り越してもう感嘆の声が出てしまう。こんな人に2億なんて懸賞金が出されているのを思うと、海軍は誰かと額を間違えたのではないだろうかと考えてしまうのだが・・・本当に間違えていないのだろうか。
「 船長、起きてください。」
「・・・」
「ちょっと何起こすなみたいな寝返り打っているんですか。」
ゆるゆると体を軽く揺らしてみればこちら側を向いていた彼の身体はゆっくりと反対側の方を向いてしまい、おまけに嫌そうに眉間には皺を寄らせ先程よりも深く布団を被り直してくれる船長。たまに俺が寝坊した時はいつも無理矢理にでも起こすくせに、自分は気の済むまで寝ようとするのかこの人は。
「船長、起きてくださいよ。」
「 もう少し、 寝かせろって、言ったはずだ・・・」
「もう昼に近い時間なのにもう少しも何もありませんよ、そして俺はそんな言葉聞いていません。」
そんな事を言って気持ちよさそうに寝ている船長を見ていると腹の底から沸き上がるものがあったけれど、そんなことで沸き上がったものを噴出させていては身が持たないともう既に理解していたから、その衝動を自然に沈下させていくという必要のない技を身につけてしまった。
「 、」
「・・・俺だっていう認識はあったんですか。」
先程の発言から誰かと勘違いしているのかと思いきや、俺の名前を呼んで器用に腕を伸ばして俺の腰にそれを回してくる船長。反対側を向いているのにどうしてこんな時だけは、なんて思いながら船長の腕から逃れようと後ろへ身体を引くのだけれど、寝ているくせにその力は起きている時と変わらない力で俺の腰を掴んでくるものだからその試みも失敗に終わってしまう。
「せん、っ!?」
「 お前も、一緒に寝ろ。」
もうどう足掻いても起きないだろうと思った俺はせめてこの腕を放して自分の体を自由にしてからと思い船長に声をかけようとしたのだが、それに感付いたのか自分の欲望からなのかは分からないけれど、俺達の船長はそれすらも許してくれないらしく。ひどく強い力で引っ張られて、気付いた時には彼の腕の中にすっぽりと納まってしまっていた(いつ身体をこっちへ向けたんだ?)
「・・・船長、起きるのはもう自分の好きな時間で良いと思いますが俺を巻き込まないでください。」
「 良いじゃねェか、そのまま、俺に抱かれとけ。」
「(ひどくいかがわしく聞こえるのはこの人の所為なのだろうか。)」
一応抜け出そうとしてみたものの、船長の腕がしっかりと俺の背中へ腰へと回されているためにそれが不可能だという事が分かるのに、そしてもう既に諦めに入っていた俺がこのまま彼の腕の中で寝てしまうという選択肢を取るのに、時間というものは全く要らなくて。
「 今度の島で、本買ってくださいよ。」
「 フフ、もちろんだ。」
そう言って俺の額に唇を押しつけてくる船長は、俺のその手軽い条件に笑みを浮かべているのだろう。そんな条件しか出せなかった自分を認めるのが何だか悔しかったから、胸元から聞こえてくる彼の鼓動に一種の安堵感を感じて眠気を誘われてしまったということも船長には絶対に言うまいと目を閉じる最中に自分にそう誓ったのだった。
手緩い仕打ち
その真意に、彼はもうとっくに気付いているのかもしれないけれど、
title by 赤小灰蝶 / 手緩い仕打ち