自分の乗っている船からそんな声が聞こえる。誰かに見張りをさせるほど、長時間行っていた覚えは無かったのだけれど、それでも何だか仲間が早く来てくれと懇願するような目でこちらを見ていたから俺は足の回転を速めて船へと乗り込んだ。
「・・・遅ェ、何してたんだ。」
「何してたんだって、船長でしょう、俺に本を買いに行かせたのは。」
しかめ面をしてそんな言葉を放つ我が船長に今度は俺が顔を顰める。手に持っていた本を指差しながら彼に返答をすると「それを含めても遅かったから言ってンじゃねェか。」なんて不満そうな声で返された。
実のところ、賞金首に攻撃をしかけられたからそれに応戦して予定時間よりも少しだけ遅くなってしまったのだけれど、そんな事を言ってしまえばどうなるかなんて目に見えて分かっていたから黙っていることにしようとした。それも試みだけで終わってしまうのだけれど。
「そんなに遅くはなってないでしょう?別に変わった事なんてなかったですよ。」
「ほォ? じゃあお前のその傷は何だ?」
「 ・・・傷?」
彼の言葉に応戦している時にしくじったのだろうかと考えていると、船長の手が俺の腕を掴んで強引に自分の方へ引き寄せた。不意をつかれてしまった俺は為す術もなく、そのままの勢いで引っ張られて彼の懐の中へとダイブする形になってしまった。何するんですか、そう彼に言おうと顔を上へと向けるとそんな俺の言葉を飲み込むようにして俺の唇に噛み付いてきた。
「・・・誰にやられた。」
その言葉を放ちながら、頬をべろっと舐めて来る船長。その瞬間に刺激が来たのは、きっとそこに傷があったからだろう。疑問ではなくて断定的なその口調に、後ろから銃で撃たれそうになった事を思い出すと同時に後悔が押し寄せてくる。(・・・もっとちゃんと避けるんだったな。)
「 賞金首ですよ。襲われたんで応戦していたら、少し時間が長引いてしまったんです。」
「でもちゃんと倒しましたから、問題はないです。」 その言葉でさえ言わせてもらえず、また塞がれる。それから俺の瞳をのぞき込み、いつものような心地よい低音で言葉を放った。
「お前の頬も、顔も、身体も、傷を付けて良いのはこの俺だけだ。」
「勝手に傷を作るな。」 なんて自分中心な言葉なんだ、そう思いながらも口にしないのはその言葉の意味を理解しているからで。けれど簡単に「分かりました。」 なんて言えるほど俺も素直な人間でもなかったから、妖しい笑みを浮かべてこちらの様子を見ている船長の唇に自分から噛み付いてやった。
気味が悪いほどに君の全てを欲してる
、その場所に案内しろ。 だから、もう大丈夫ですよ。 俺のモンに傷を付けたんだ。それ相応の礼をしてやらないと、な? (聞いてないし) 礼をした後は、お前にも、だぞ? ・・・(それが目的ですか)
title by 赤小灰蝶 / 気味が悪いほどに君の全てを欲してる