「ああ、大将、ここにもサインお願いします。」
「ん?あらら、書き忘れてた?」


さんの凛とした声が1つ響いて、その後にクザン大将の間延びした声が1つ聞こえてくる。目の前に広がる光景は、クザン大将直下の部下であるならば、もう見慣れているものだ。かくいう俺も、その1人になる訳だが。俺が入ってきた大将に割り当てられたこの部屋には他の2人の大将の部屋には置かれていないものが1つある。


「まったく、こう机に張り付いて仕事ばっかりやってると身体が駄目になっちまうよなァ。」


自分のデスクで頬杖を突きながら側に立っていたさんへと言葉と向けている目でそんな事を訴えるクザン大将。けれどさんがそれに絆されるなんて事はあるわけもなく。行動に一切の躊躇も見られず、その目から身体を背けたさんはこの部屋だけに置かれているその方へとすたすたと歩いて行った。


「・・・貴方が書類仕事を後回しにするからです。」


「そのツケが回ってきてるんですから、自業自得ですよ。」 ため息と一緒にそう言葉を零しながら、さんは大将とは別のもう1つのデスクに腰を降ろして横に山と積まれた書類に手を伸ばした。そう、この部屋にはクザン大将の副官であるさん専用のデスクがあるのだ。あくまで噂だが、「分かんない書類がある度にわざわざそっちに聞きに行くの面倒でしょ。」 なんて大将が言ってさんを自分の部屋に強制的に連れてきたとか、こないとか。


「・・・君ってば冷てェんだから。」


「俺、一応、君の上司なんだから、励ましの1つ2つくらい。」 お互い自分のデスクに座りながらそんな会話をする2人の声を、相変わらず俺はドアの側に立ったまま聞いている。書類に目を通したり、書類を作成したりするために忙しなく動くさんの手が視界に映る一方で、確かにしっかりと動いてはいるんだが、えらくのんびりとした動きになっている大将の手も俺の目に入ってきた


「・・・自分で一応なんて言ってる時点でどうかと思いますが・・・何です、励ましたら頑張ってくれるんですか?」
「・・・いや、そんな言葉の後に励まされても。」


「・・・君、俺の事、本当に上司だと思ってる?」 大将の言うとおり、本当にどっちが上司でどっちが部下何だか分からないような会話が続けられる中、「すまないね、もう少し待ってくれるかい?」なんて俺には困ったように笑いながら優しく声をかけてくれるさん。俺達の間では優しくて滅多に怒らない理想の上司として語られているさんではあるけれど、こうやって大将の前では普段の彼からは考えられないほど、辛辣な言葉がそれはもうしょっちゅう聞かれるのだ・・・聞かれるのだけれど、


「もちろん思ってますよ。」


「貴方以外の下に付く気なんて微塵も考えたことありません。」 くるりと、書類に向かっていたはずの身体が大将の方を向いてそんな声が放たれた。本当に、さんは言葉の使い分けが上手いと思う。しかも、それはわざとそうやって使い分けているわけではなく、自然とその言葉を紡いでいるのだ。何を当たり前の事を、なんて顔をしながら、さんがそうやって大将へと返事をするから、きっと大将も、


「・・・ホント、アメとムチの使い分けが上手いよなァ、君は。」
「 はい?」
「いやァ、良い部下を持ったと思ってな。」


相変わらず腕で支えられている顔に、今度はゆるりと笑みが浮かべられたのを俺は視界の端に捉えた。こんな風に、大将はさんの事を良い部下と、そしてさんはクザン大将の事を・・・良い、上司かどうかは別として、付いて行こうと思える上司だとお互いのことを言っているけれど、普段からこうして見ていると、ホントに相性の良い2人だなあと思うのだ。


「・・・そんな持ち上げても書類の量は減らしませんからね。」


「どれもこれも締め切り間近のものなんですから。」 さんは誰から見たってしっかりしていて人間のできた人と言うだろう。けれど、クザン大将だって普段はこうしてさんに怒られてばかりだけれど、戦闘になった時やいざって時にはやっぱり頼りになる人なのだ。さんも大将のそんな所を尊敬しているのだと思う。(だって、大将が戦った後のさんの顔はいつもよりも緩んでしまっているのを俺は知っている。)


「えー、ちょっとくらい休憩しても良いじゃない。」


「俺がコーヒー淹れてくるからさァ。」 普段はしっかりさんがカバーして、ここぞという時は風格を見せてくれるクザン大将。本当に相性の良・・・あれ、それって、何だか、今、ふと思ったんだけど、


「・・・分かりました。コーヒーは俺が淹れてきますから、それまでにここの書類はちゃんと終えてください。そうすれば、休憩しても良いですから。」
「えー、もう少し減らしてくれても、」
「終わらせてください、良いですね?」
「・・・はいはい、」


さんの一言に、もう逆らいませんと言わんばかりに両手を挙げてクザンさんは俺の持ってきた書類に手を伸ばしてサインをした。今のやりとりもそうだけど、そういえば、いつもふと思うのだ。お互いがお互いの隣を歩く事が当たり前になっているこの2人が、


「いつも待ってもらってすまないね。はい、この書類を届けてくれるか?」
「了解しました、これくらい何でもないっすよ。それにしても、いつも思うんですけど、」
「ん?どうしたんだい?」
さんと大将って、」


「なんか、夫婦みたいですよねー。」 うちの主人がって、さんが言って、うちの嫁さんがってクザン大将が言ってるの想像してもまるで違和感がないんっすよねー。あ、それじゃあ失礼します。 なんて、さんから書類を手渡された俺はそんな事を何とも思わずにぽろっと口に出しながら、その部屋を後にしたのだ。


「・・・ふうふ、」
「あらら、これまた面白い事を言ってくれちゃったねェ。」


「どうする?俺は君が嫁さんでも構わねェけど。」なんて会話がされている事はもちろん知らずに。

お似合いの、

・・・どうする、じゃないですよ。だいたい、何で俺が嫁に。  えー、俺が嫁になれって?  ・・・いや、それもそれで気持ち悪・・・というか、そういう話ではないでしょう?そもそも何で夫婦に。  ・・・君、今、気持ち悪いって言ったでしょう。



title by Lump / お似合いの、(優しい恋人と5題)